2019年12月15日

〔使徒言行録連続講解説教〕

(15/9/27)(その2)

 ここで、私たちは「行い」と訳されている語に注目してみたい、と思います。
原語では「エルガ(エルゴン)」で、聖書では頻出語です。もともとは、神のな
したもうことをさし、「イエスは答えられた。『私は言ったが、あなたたちは
信じない。わたしが父の名によって行う業が、わたしについて証している。…』
(ヨハネ10:25)」と言った風に用いられ、その際は「業(わざ)」と訳されていま
す。そして、イエスの弟子にもイエスに倣った「業」が求められているのです
(マタイによる福音書5:16(この場合には「エルガ(エルゴン)」を「業」と訳さ
ず、「行い」と訳してしまっていますが)など)。
 しかし、人間の行う「業(わざ)」は、しばしば「業(わざ)」によって救われ
ようとする律法主義に陥ってしまいます。パウロは、そのことを強く懸念し、
「人が義とされるのは、律法の行いによるのではなく、信仰によると考えるか
らです。(ローマの信徒への手紙3:2―ここでも「エルガ(エルゴン)」を「業」
と訳さず、「行い」と訳してしまっていますが)人間の行う「業(わざ)」は、神
に倣おうとしても、しばしば自分中心に陥ってしまうことを明らかにしていま
す。
 そこで、人間の行う「業(わざ)」は、ヤコブの手紙のような反発はありはし
ますが(ヤコブ2:22〜26)、神の「業(わざ)」からは一段、いや一段どころかま
るで低いものとして、同じ「エルガ(エルゴン)」という語でありながら、「行
い」と訳しているのです。
 さて、問題は、黙示録2:19の「エルガ(エルゴン)」です。神の「業(わざ)」
からは一段、いや一段どころかまるで低いものとして、考えられたものでしょう
か。だとしたら「行い」という訳は適切です。しかしここではそうではありま
せんですね。その中身が、自分がこの「行い」によって救われようとする律法
主義ではなくて、「愛、信仰、奉仕、忍耐」という語によって示される、一言
で言えば「信仰」に要約される事柄ですから、「業(わざ)」と訳されるべきで
す。意味内容からすると、「信仰」と訳したっていいくらいです。
 つまり、ティアティラ教会の教会員はとても褒められているのです。理想的
と言ってよいくらいの教会である、と。
 それではなぜ、その教会に、来週から触れようとしている大問題、他の教会
ではありえないような大問題が起きてしまったのか。今日はそれについての可
能性だけ示唆して、この説教を閉じたい、と思うのです。
 それは、歴史と伝統の欠落というこの町の持つ弱点が、教会においても、い
や教会においてより強く表れて来てしまったのではないか、と言うことです。
 先ほど、この教会の成立の過程は分からない、と申し上げました。ですから、
推測にすぎませんけれども、伝道の際に、神の救済の歴史を踏まえた伝道が行
なわれたかどうか、大変に疑問なのです。イエスを信じることがすべての人の
救いとなることは伝わったことでしょう。しかし、救いが、ユダヤ人のみから
世界に広げられたことの意味、そこにキリストの贖いがあったことが十分には
伝わっていなかったのではないでしょうか。
 ですから、信徒の信仰が、それ自身は立派なものではあっても、「自分だけ
の救い」に限定され、神の救いの歴史にまで目が向けられず、してよいことと
してはいけないことの区別がつかなくなってしまったのではないか、と、私は
捉えています。
 いつものように、元住吉教会の歩みに照らし合わせて、ティアティラの教会
を見ていきましょう。
 私は今まで出てきた教会の中で、ティアティラの教会は元住吉教会に一番よ
く似ている、そっくりだ、と思いました。川崎は、何の歴史も伝統もないとこ
ろにただ集まって来た人たちのコミュニティーです。そこで元住吉教会は社会
的義務には一切触れずに伝道してきました。伝統のないところでは、すんなり
福音が入って行きます。
 しかし、歴史と伝統に対する自覚、畏れがありませんから、「その場限りの
信仰」、「使命を見失った信仰」になりかねないことも事実です。そして、場
合によっては、「甘い言葉に誘われて、」いとも簡単に道をそれていくことも
起こりうるのです。
 私たちに何が必要でしょうか。福音がわたしたちのところにまで到達するた
めに、いかに多くの血が流されて来たか、を知ることと、このコミュニティー
の中で、私たちがどこに目を向けなければならないか、をイエスに倣って見つ
めることから始めなければならないのではないでしょうか。たとえつらくとも、
地域の困難を共に担う時、福音は本当に根付いたものとなるに違いありません。

(この項、完)



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