2019年09月29日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第13回「ヨハネの黙示録2章9c〜10節
(15/8/23)(その1)


9節c〜10節「自分はユダヤ人であるという者どもが、あなたを非難している
ことを、私は知っている。実は、彼らはユダヤ人ではなく、サタンの集いに属
している者どもである。あなたは、受けようとしている苦難を決して恐れては
いけない。見よ、悪魔が試みるために、あなたがたの何人かを牢に投げ込もう
としている。あなたがたは、十日の間苦しめられるであろう。死に至るまで忠
実であれ。そうすれば、あなたに命の冠を授けよう。」

 今日はスミルナ教会への手紙の二回目です。前回を振り返ってみますと、ス
ミルナ教会では、スミルナ教会には、ユダヤ教徒、異教徒そしてローマ帝国の
三者一体となった迫害が加えられた、これがすべてです。
 前回は、この迫害を受けた、受けている教会に対する励ましの言葉のみ触れ
ましたけれども、今日は、迫害の実態に迫ってまいりましょう。
 まず第一にスミルナにおいては、なぜ、ユダヤ人が迫害を行い得る者、権力
者になる、ないしは一体となることができたか、とう問題です。
 先週も申し上げたように、エフェソにおいても多くのユダヤ人が住んでいま
したが、彼らはあくまでも、ローマ人からすると異教徒、外国人であり、アル
テミス神殿派の敵だった(使徒言行録19:33〜34)はずなのに、です。これも
先週申し上げたとおり、なぜ、スミルナでは、ユダヤ人が、異教徒、そして
ローマ帝国に取り入ることができたのか、は謎なのですが、推論を紹介してみ
たい、と思います。
 すでに度々お話ししているように、パウロによるキリスト教の異邦人伝道が
行われる前に、ユダヤ教徒は、既に異邦人伝道を行っていました。そして、そ
れはかなりの成果を上げていたと考えられ、上流階級でもユダヤ教への改宗者
を生み出していました。
 たとえば、ヨセフスの古代誌]].Aには、アディアベネ王家の改宗物語が
語られています。アディアベネとはメソポタミア地方、北部の地名です。ア
ディアベネ王家の王女ヘレネとその子イザテス(後に王となる)が、ユダヤ人
商人の勧めにより、ユダヤ教徒になり、つまりユダヤ教に改宗し、さらには
「父祖伝来の慣習にきわめて厳格であるという評判の高いエレアザロというユ
ダヤ人(たぶんファリサイ派であると思われますが)」の勧めに従って割礼ま
で受けてしまった、という物語です。
 母親のヘレネもユダヤ教に傾倒してはいましたが、息子が割礼を受けたこと
に対し、ひどく驚き、恐れました。なぜなら、「もし割礼を受けたことが発覚
すれば、領民たちは、そのような外国の慣習に惑溺している男の支配を受ける
ことを拒み、そのために王がその統治権を失う」恐れがある、と思ったからで
す。
 しかし、ヨセフスによれば、神は、「神にたいして目を向け、神にたいして
のみ信頼をささげる者をお見捨てになることなく、かえって報酬をもって報い
られ、王国をパルティアの手から守られた」とのことです。
 この物語、エピソードからわかることは、当時、ユダヤ教の伝道師が世界各
地を巡回しており、その地の王家にまで入り込み、王家から、さらには、王自
身をも改宗者として獲得していた、という事実です。
 ということは…
私たちは、ユダヤ教のシナゴグというと、外国の地、異教徒の真ん中に取り残
されたユダヤ人、ユダヤ教徒が自分の身を守るために集まったところだ、と思
いがちですが、必ずしもそうばかりではない。その地の上流階級に信者がおり、
時には、その地の王さえも信者であるケースもあった、ということです。
 だとすると、ひっくり返して、シナゴグ、地の権力者、さらには地元の人た
ちが一体となって「共同体」をつくっているところへ、今度は本当に異質なキ
リスト教が入り込んで伝道を開始したら、(しかもそのキリスト教が「受け入
れがたい排他性」を持っていたとしたら、)そこでは、ユダヤ教徒だけでなく、
シナゴグ、地の権力者、さらには地元の人たちが一体となった圧迫、いや圧迫
ではなく、迫害が起こってしかるべきなのではないでしょうか。
 スミルナの町がもしそのような町の一つであったとしたら、それは資料がな
いので確認の仕様がないのですが、スミルナの教会に対して「町ぐるみ」の迫
害が起こったことも得心がいくことであるし、その迫害の中心となったシナゴ
グに対して、キリスト教徒の側から「自分はユダヤ人であるという者どもが、
あなたを非難していることを、私は知っている。実は、彼らはユダヤ人ではな
く、サタンの集いに属している者どもである。」という罵声があびせかけられ
るのも当然のことです。

(この項、続く)



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