2019年04月21日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第1回「ヨハネの黙示録1章1〜3節」
(15/4/12)(その2).
(承前)

 まず、パウロが護送されて、ローマにたどり着いたのが、紀元後60年のこと
だったと、考えられます。そして、まるまる2年間、パウロの自由な活動の
日々があり、その後パウロは処刑されたと考えられます。
 パウロが命長らえている間はまだよかったのですが、この後、60年代にいっ
たい何が起こったのでしょうか。
 64年には、ユダヤ教徒が待ち焦がれた、ヘロデ神殿の完成がありました。し
かし、その喜びも束の間、ユダヤとローマの関係は急速に悪化し、ついに66年
に、ユダヤによるローマへの最初の反乱がおきてしまいます。
 が、それでも67年までは、ユダヤ内部に抗戦派と穏健派との対立があったの
ですが、67年11月に穏健派が一掃されるに至って、ユダヤ戦争、全面戦争に突
入し、あの70年9月26日のエルサレムの全滅へと転げ落ちるようにして、突き
進んでしまいました。
 戦争、そして、エルサレムの崩壊によって、ユダヤ教は、ファリサイ派の一
部を除いて、ほぼ全滅してしまいました。
 パウロは、このユダヤの運命を見透かしていたかのごとく、キリスト教への
改宗を勧めたのです。キリスト教は既にイエスにおいて、ユダヤ教の神殿礼拝
から自由になり、イエス・キリストの血と肉、を犠牲としていただく、今の聖
餐式ですが、礼拝へと変化していました。それゆえ、神殿のあるエルサレムを
捨てることに何の躊躇もなく、あの、律法主義からなかなか抜け出せなかった
エルサレム教会においてさえ、エルサレムを脱出しデカポリスの町、ペラに移
住したのです。つまり、キリスト教は、この戦争、そしてその敗北による滅亡
を免れていたのです。
 ユダヤ教についても、パウロの願い、祈りは、完全には叶いませんでしたが、
ファリサイ派の一部がエルサレム脱出ということで、とりあえず、ユダヤ教の
完全壊滅は免れ、ユダヤ教徒がキリスト教徒に改宗する願いは、今後の課題と
して持ち続けることはできることとなりました。それは、最終回の1回前の講
解説教で申し上げた通りです。
 さて、エルサレム脱出後のキリスト教においては、福音書が記され、パウロ
書簡等々の書簡が編集され、いわゆる「キリスト教」の形が整えられていった
時代で、つまり、70年のユダヤ戦争の後90年ぐらいまでが、最も実り多い時代
でした。きっと、教会が順調に発展していった時代だったことでしょう。
 しかし、この時代のことについては、福音書、パウロ書簡等々の書簡といっ
た作品は残されているのですが、時代の記録はありません。残念です。
 が、そうこうしているうちに、ユダヤ教がユダヤ戦争で直面した絶滅の危機
に、成立間もないキリスト教も直面することとなってしまいました。他人事で
はなくなってしまったのです。
 それが、おそらく、96年9月を前にして起こった、ドミティアヌス帝による
キリスト教に対する大迫害です。
 すでに述べましたように、ローマによるキリスト教徒に対する迫害は、64年
に、ネロ帝によって引き起こされました。この迫害はタキトゥスによれば、キ
リスト教徒は「カエサル家の庭園でなぶりものにされて殺され、野獣の毛皮を
かぶされ、犬に噛み裂かれ、また日没後は夜の灯火の代わりに燃やされた、と
言った残酷なものではありましたが、それはネロという人の異常な性格に由来
するものであって、教会そのものを揺るがすものではありませんでした。むし
ろ、一般のローマ人の反感と嫌悪を買うものでした。
 しかし、ドミティアヌス帝による迫害は、その残虐性はネロのそれには劣る
としても、教会に大きなショックを与えるものでした。なぜなら、ドミティア
ヌス帝によって皇帝礼拝が強制され、「主にして神」という呼びかけが求めら
れたからです。クリスチャンは、これを、たとえ皇帝であっても、人に対して
言う訳にはいきません。つまり、ドミティアヌス帝の迫害は、キリスト教の礼
拝そのものを否定する、ちょうどユダヤ教徒において、神殿が破壊されると同
じ効果を持ってしまったのです。
 さあ、どうするか。逃げ出すか、戦うべきか、この場面において、記された
のが、ヨハネの黙示録であった、とするのが通説です。
かなり深刻です。
 今日の1〜3節は、表題の部分ですが、そこには、この迫害を終末の出来事
の一環として捉え、これから起こることを、示そうという意図が見られます。

1節「イエス・キリストの黙示。この黙示は、すぐにも起こるはずのことを、
神がその僕たちに示すためキリストにお与えになり、そして、キリストがその
天使を送って僕ヨハネにお伝えになったものである。」

(この項、続く)



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