説教20190224

2019年02月24日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第114回「使徒言行録28章23～24節」
（15/３/８）（その２）
（承前）

23節前半からいきます。

23節前半「そこで、ユダヤ人たちは日を決めて、大勢でパウロの宿舎にやって
来た。」

　日本語の聖書を読んでいるだけでは、思いもかけない問題がここにはありま
す。この「宿舎」と訳されている語、「クセニア」という語ですが、実は、新
約聖書で、こことフィレモン22節にしか用例がなく、意味が特定できない語な
のです。本来は「ホスピタリティー（おもてなし）」という意味の語です。で
すから、23節前半は「そこで、ユダヤ人たちは日を決めて、大勢でパウロのも
てなしを受けにやって来た。」となります。それで十分意味が通ります。でも、
「宿」という意味である、と受け取る文献もあり、新共同訳は、「宿」の方を
取ってしまった、ということです。
　しかし、パウロは旅行中の訳ではなく、フィレモンの用例と違って、「宿」
を自由にとれる立場ではありませんから、ここでは「ホスピタリティー（おも
てなし）」と訳すべきなのではないでしょうか。兵営を日を決めて訪ねてくる
ユダヤ人を、パウロは大歓迎、精いっぱいの歓迎をもって迎えたのであります。
すなわち、パウロには「どうしても話さなければならない」という思いがあり
ましたし、一方ユダヤ人も、いやいや来たのではなく、真剣だったからであり
ます。
　そこで、話の内容であります。

23節後半「パウロは、朝から晩まで説明を続けた。神の国について力強く証し
し、モーセの律法や預言者の書を引用して、イエスについて説得しようとした
のである。」

　新共同訳の翻訳では、パウロが各地のシナゴグでの伝道活動と同じことをし
たかのように受け取られてしまいます。しかし、原文にはそうは書いてありま
せん。原文にはどう書いてあるか、最初に私なりに訳したものを提示して説明
することといたしましょう。
　23節後半「その彼ら（パウロのところへ来た人たち）に、彼（パウロ）は、
神の国を証明して解説し、モーセの律法と預言者からイエスへ（という流れに
ついて）、説得した。朝から晩まで。」
　まず、パウロが話した相手は、同じ危機意識をもって、パウロのところへ真
剣に話を聞きに来た人たちです。大衆伝道をしているわけではないのです。
　その人たちとの対話で、パウロが真っ先に取りあげたテーマが、神の国でし
た。
　「神の国」とは、イエス・キリストの福音、ないしはイエス・キリストその
ものを指します。それは確かです。しかし、使徒言行録でこの語が用いられる
ことはまれであり、28章以外の４回の用例の内、一回は天国のこと（14:22）、
３回（1:3、8:12、19:8）は「キリスト教の教え」の意味で用いられています。
ここもそうでしょう。パウロはここで話すテーマとして、キリスト教を前面に
押し出してきたのです。
　その上で、パウロの話の力点は、その次にありました。
「モーセの律法と預言者からイエスへ（という流れについて）、説得した。」
　「モーセの律法と預言者」とは、ユダヤ教についての別称ですから、パウロ
は「モーセの律法と預言者からイエス」ということで人はユダヤ教からキリス
ト教へ改宗すべきこと、を言ったのです。ユダヤ教からキリスト教への改宗を
強く勧めたのです。使徒言行録においては、ペンテコステにおけるペトロの説
教（2章）、３章のペトロの説教において、イエスは、ユダヤ教において待ち
望まれたメシアそのものである、という論法で説教がなされています。それに
気づきなさい、と言われています。
　しかし、ここでは、ユダヤ教徒が皆キリスト教徒になってしかるべき、と
言っているのです。なぜ、そこまでパウロは、しかもユダヤ教の指導者に、キ
リスト教への改宗を強く勧めているのでしょうか。
　そこには、「ユダヤの滅びを避けるように」との強いメッセージが込められ
ていたのです。
　パウロの説教から少し後のことですが、というのは、ヨセフスのユダヤ戦記
によれば（Ⅵ-300～）、ユダヤ戦争の2年前、62年の仮庵祭のころ、エルサレ
ムにアナニアの子イエスという預言者が現ましてエルサレム神殿で突然、大声
で「東からの声。西からの声。四つの風からの声。エルサレムと聖所を告発す
る声。花嫁と花婿を告発する声。すべての民を告発する声。」と叫びだしたの
です。この後、彼は「エルサレムに呪いを。」とだけ叫び続け、７年５か月後
に、戦争の最中に「都と民と聖所に再び呪いを。」そして最後に「そして私に
も呪いを。」と叫んだ時、ローマ軍が投石器から発射した石弾が命中して即死
しました。

（この項、続く）