2019年02月10日
〔使徒言行録連続講解説教〕
第113回「使徒言行録28章21〜22節」
(15/3/1)(その2)
(承前)
で、これも先週の説教の後半で丁寧に申し上げたところですが、聖書を読む
限り、パウロはこの「ユダヤ人の主だった人たち」との懇談を通して、ユダヤ
教と連帯しようとしたとしか、考えられないのです。何のために? 6年後に
迫った「ユダヤ戦争に備えて」です。
ですから、パウロはまず、ローマのユダヤ人、ユダヤ教徒こそその元凶の一
人であるディアスポラのユダヤ人を責めました。パウロに濡れ衣を着せて、つ
まり冤罪でパウロに命の危機を与え、ローマに囚人として引っ張られてくるよ
うにしたからです。
それにもかかわらず、パウロは、自分は犠牲になってもいいから、「イスラ
エルの希望(ユダヤ戦争で生き残ること)―原文はそう書いてあります。『イ
スラエルの希望すること』なんちゅうのんきなことは言っていません。」のた
めに共に戦いましょう、と言ったのです。切羽詰っているでしょう。立場の違
いなんて言っていられないではないですか。
要するに、パウロは、ユダヤ戦争でユダヤ人が滅びてしまわないようにする
のに、必死なのです。ちなみに、著者のルカは、当然のことながら、66年のユ
ダヤ戦争でユダヤが敗れ、エルサレムの町が神殿から何から全部破壊しつくさ
れてしまったことを知っているのです。ひょっとしたら目の当たりにしていた
かもしれません。その上で、この記事を書いているのです。
ルカも、パウロがこの時なぜユダヤ教指導者と渡りをつけておこうとしたの
か、不可解だったかもしれません。でも、後になってみると、パウロが「戦争
の予感」「カタストロフの予感」をもって行動していたことが分かったのでは
ないでしょうか。あの時、ユダヤ人はパウロの言うことを聞いておれば、滅び
ずに済んだのに、そういう痛恨の思いをもって、この記事を書いていることを
わたしたちは決して忘れてはなりません。
しかし、ユダヤ人の中にも、そして「ローマのユダヤ人」においては、パウ
ロと思いをひとつにする者もいたことが、本日のテキストに示唆されています。
見ていきましょう。
21節「すると、ユダヤ人たちが言った。『私どもは、あなたのことについてユ
ダヤから何の書面も受け取ってはおりませんし、また、ここに来た兄弟のだれ
一人として、あなたについて何か悪いことを報告したことも、話したこともあ
りませんでした。』」
この21節に関しては、翻訳上の問題点はありません。
その上で、ここで書かれていること、言われていることについてですが、皆様
も、はっきりした理由は分からなくても、素直には受け取れなかった方が多い
のではないでしょうか。
実際、ここで書かれていることを額面通り受け取ってよいか、大変に疑問な
のです。なぜなら、シナゴグとは、以前にも申し上げましたが、あくまでもエ
ルサレムにありますユダヤ教の総本山サンヒドリンの支部だからです。シナゴ
グがエルサレムから独立するのは、あくまでもユダヤ戦争の後のことです。
分かっている限りですが、紀元前2世紀に最初のシナゴグが、造られました。
その建造の目的は、ディアスポラ(外国居留)のユダヤ人のための礼拝の場を
提供することでした。ユダヤ教の規定によれば、古代ユダヤ教徒は、除酵祭、
刈り入れ祭(五旬節)、仮庵祭の時にはエルサレム神殿に犠牲を献げに行かねば
なりません。つまり、年3回のエルサレム詣が義務付けられていたのです。
しかし、ディアスポラ(外国居留)のユダヤ人があまりにも多くなり、しか
も世界各地に広がるようになり、多くの人が年3回のエルサレム詣に困難を覚
えるようになってなり、そして各地に造られたのがシナゴグだったのです。あ
くまでも支部ですから、本部との連絡は密であったはずです。確たる証拠物件
があるわけではないのですが、定期的な通信、さらには人的な交流があったこ
とが想定されています。シナゴグは孤立してはいなかったのです。
当然、パウロのようにユダヤ教を脅かす者として告発された者についての情
報、警告は真っ先に流された、と考えるのが自然ではないでしょうか。逆に流
されなかったとしたら、こんな不自然なことはありません。
ローマのシナゴクが、パウロについて、「ユダヤから何の書面も受け取って
はおりませんし、また、ここに来た兄弟のだれ一人として、あなたについて何
か悪いことを報告したことも、話したこともありません」ということは、「と
うていありえへん」ことなのです。
この記述をまともに受け、「ローマでパウロは、何の偏見も先入見もなく伝
道できた。ちょうとアテネでのごとくに。」などと受け取る人は、実は多いの
ですが、聖書の読みが実に浅い、と言わざるを得ないでしょう。
(この項、続く)
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