2019年01月06日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第110回「使徒言行録28章11〜15節」
(15/2/8)(その3)
(承前)

 さて、話を戻して、ここも本文と異読があるところでして、本文は、「ペリ
エロンテス(周りのものを投げ捨てて)」であり、異読が「ペリエルソンテス
(海岸沿いに進んで)」です。本文を取ると、「船がつないでいる小舟だとか、
を投げ捨てて」という意味になり、明らかに逆風に会った事になります。
 異読を取ると、「海岸沿いに順調に航海した」ことになりますね。
しかも、ここはD評価、すなわち本文と異読とどちらが原本か決定できない、
という問題のある箇所なので、私たちは「アーラどうしましょう」です。
 新共同訳は安易にも「異読」を採用し、順調な航海をしたように訳してしま
いましたが、私はあえて「本文」を取りたいです。やはり、この短い航海でも、
パウロ一行は困難に直面したのでした。しかし、今度は、少なくとも、「わた
したち」、兵士も含めて、は「神の計画を信じて肝が据わっていましたから、
動揺することはなかったのです。
 ちなみに協会訳聖書は、「進んで」と訳して判断を逃げてしまいました。こ
れではどっちかわからず、聖書のメッセージがきちんと伝わりません。
 逆風にあったからこそ、「南風が吹いて来た(13節)」とき、喜びが満ち溢
れたのはないのでしょうか。
 それでまだローマについてもいないのに、プテオリで「こうして、わたした
ちはローマに着いた。」と著者は思わず歓喜の言葉を書いてしまったのではな
いでしょうか。
 さて、プテオリからローマまでは130マイル、200キロ余あり、とても「つい
た」とは言えないのですが、それでもパウロは兄弟たち(クリスチャン)に会
い、ローマの教会の信徒が迎えに出てくれて、ここにおいても喜びにあふれま
した。しかし、ローマ教会の不安要因をも垣間見ることとなり、課題を与えら
れてローマに入ることとなるのです。

14〜15節「わたしたちはそこで兄弟たちを見つけ、請われるままに七日間滞在
した。こうして、わたしたちはローマに着いた。ローマからは兄弟たちがわた
したちのことを聞き伝えて、アピイフォルムとトレス・タベルネまで迎えに来
てくれた。パウロは彼らを見て、神に感謝し、勇気づけられた。」

 プテオリには、ユダヤ人のコミュニティーがあったことが分かっており、そ
の中で、アキラとプリスキラ(18:2)のように、キリスト教に改宗する者がい
たのかもしれません。ローマの教会についても、だれが創立したのかも、その
当時どこまで組織が整っていたのかもわかりません。しかし、ローマの信徒へ
の手紙は既に届けられていたはずであり、パウロを迎える体制は整っていたの
です。
 パウロのプテオリ到着の報を受けて、信徒の一団が遠路はるばるパウロを迎
えに出ました。素晴らしいことです。
 ところが、それは2つのグループに分かれており、一つは、アピイフォルム
(ローマから43ローママイル=63.64q:1ローママイルは1000歩)、もう一つ
はトレス・タベルネ(ローマから33ローママイル=48.84q)のところでパウロ
の一行と出会いました。
 48.84qと63.64q、大して違わないではないか、と思われるかもしれません。
しかし、違うことは違うので、せっかく迎えに来たのに、どうして2グループ
になってしまったのか、私たちは気になります。ルカは全く説明していないの
で分かりませんが、ローマ教会にも不安要因があることだけは感じ取れます。
 ローマ行という大きな使命が達成されるときです。しかしそれは、新たな課
題との取り組みの始まりでもあったのです。

(この項、完)


第111回「使徒言行録28章16節」
(15/2/15)(その1)

16節「わたしたちがローマに入ったとき、パウロは番兵を一人つけられたが、
自分だけで住むことを許された。」

 使徒言行録もいよいよ、佳境というか、結末部分に近づいてきました。先週
は、パウロら一行がついにローマの町に入ったところでした。どんなにか、感
慨深かったことでしょうか。
 と同時に、私たちは、裁判はどうなったの、皇帝への上訴はどうなったの、
とそちらのことが気になるのですが、この後においても、ルカはその問題には
一切触れません。今日のテキストの箇所で、パウロのローマでの生活ぶりにち
らっと触れた後、17節以下の部分で、ローマでの宣教活動に触れ、そして、そ
こで使徒言行録は終わってしまうのです。
 その後パウロはどうなったのでしょうね。私たちは心配で心配で仕方ありま
せんが、その問題については、後で触れることとして、今日はたった1節の短
い聖書箇所ではありますが、パウロのローマでの生活ぶりについて確認してお
きましょう。

(この項、続く)




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