2018年10月28日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第106回「使徒言行録27章27〜32節」
(15/1/11)(その2)
(承前)

 たとえ、人々がわらをもつかむ思いでいたとしても、このパウロの答えは微
妙です。神が、パウロを皇帝の前に立たせることに決めておられるということ
を信じるならば、自分も救われることを確信することとなります。
 しかし、船員を始めとする一般乗客にとっては、パウロが何のためにローマ
に行くのかは、知りもしないし、関心もないことでしょう。それが神のみ心だ、
と言われても、絶対にピンときません。船員を始めとする一般乗客の中から、
「信じる者」が出たとしたら、それは奇跡です。
 ですから、パウロの演説を聞いて、それは素晴らしい演説であったのですが、
多くの人は半信半疑、がっかりして立ち去ったのではないか、と先週私は申し
上げたのです。
 しかしのしかしですが、ここからは先週以後のつけたしですが、アリスタル
コとルカは、クリスチャンですから、信じたことと思います。クリスチャンは、
これも先週申し上げたことですが、「神がわたしを助けてくださることを信じ
る」―これでは自分教、クリスチャン派に過ぎません―のではなく、「神の計
画」を信じる者だからです。
 そして、そしてのそしてですが、百人隊長と兵士たちは、クリスチャンでは
ありませんが、「信じた」かもしれません。なぜなら、信仰はなくとも、パウ
ロが船に乗っている事情を100も承知だからです。
 自分教、クリスチャン派に比べたら、事情を知る人の方が救いに近いかもし
れません。神のなさることをきちんと見ているからです。
 ということで、パウロの励ましの演説に、船内で微妙な受け止め方の差がで
きたところで、本日の「物語」へと話は進みます。

27〜29節「十四日目の夜になったとき、わたしたちはアドリア海を漂流してい
た。真夜中ごろ船員たちは、どこかの陸地に近づいているように感じた。そこ
で、水の深さを測ってみると、二十オルギィアあることが分かった。もう少し
進んでまた測ってみると、十五オルギィアであった。船が暗礁に乗り上げるこ
とを恐れて、船員たちは船尾から錨を四つ投げ込み、夜の明けるのを待ちわび
た。」
 それから14日たって、一行はマルタ島(28:1)に近づきました。カウダ島か
らマルタ島まで、暴風が吹き続けていたのかどうかは定かではありませんが、
妥当な日数で着いたのです。良かったです。ここでは島の名は出てきませんが、
そして、28:1で、「わたしたち」は上陸して初めて島の名が分かったように
書いていますが、船員たちは、長年の経験から、風の向き、日数などから、こ
こがどこか、分かっていたのではないでしょうか。深さを測り、最初は二十オ
ルギィア(27メートル)であったものが、十五オルギィア(25メートル)になった
のを確認し、陸地が近いことを知って、錨を艫の方から四つおろし、浅瀬に乗
り上げないようにしました。合理的な行動です。「シルティスの浅瀬」を恐れ
たときの、わけのわからない行動と全く違います。今度は、たたりを恐れたの
ではなく、上陸に備えたのです。
 ちょっとここで、本筋には影響のない議論ですが、地図を見て、「ここはア
ドリア海」ではないのではないか、と思った方もいらっしゃるかもしれません。
そう、現代では、アドリア海とは、イタリアとアルバニアとの間の海のことで
すよね。しかし、当時は、アドリア海の範囲は、東はイオニア海から西は何と
ジブラルタルまで、北はベニスから南は北アフリカまでをさしていたのです。
(プトレマイオス)ですから、これは間違いではありません。
 で、本筋に戻ります。で、ここで、おそらく、この島がマルタであるという
ことを分かったうえで、船員たちが微妙な行動に出たのです。

30〜32節「ところが、船員たちは船から逃げ出そうとし、船首から錨を降ろす
振りをして小舟を海に降ろしたので、パウロは百人隊長と兵士たちに、『あの
人たちが船にとどまっていなければ、あなたがたは助からない』と言った。そ
こで、兵士たちは綱を断ち切って、小舟を流れるにまかせた。」

 船員たちが、今度は舳先から錨を降ろそうとしたのです。この錨は、艫の錨
と違って、船の方向を安定させるためのものですので、それ自体は決して怪し
い行動ではありません。
 しかし、この錨を降ろすために、上陸用の小舟を流した行為が、ルカとそし
てパウロの疑惑を呼びました。
 もう一度言いますが、この行為そのものはまともな作業です。が、何を根拠
にかわかりませんが、ルカとそしてパウロは、そこに船員たちの、「逃げ出そ
う」とする意図を感じ取ったのです。そして、パウロの、『あの人たちが船に
とどまっていなければ、あなたがたは助からない』という言葉となりました。

(この項、続く)



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