2018年10月21日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第105回「使徒言行録27章21〜26節」
(15/1/4)(その3)
(承前)

 皆さん、この時の乗員の立場に立って、このパウロの言葉を信用できます?
 また、この言葉に励ましを受けます?私だったら、がっかりですね。パウロ
の付き合いとして助けてもらえる、というだけの話ではないですか。
 書かれていませんが、多くの人は「なあんだ。そんな話か。」失意のうちに
この場から去って行ったのではないでしょうか。
 しかし、後の成り行きから分かるごとく、この言葉は真実でした。ここには、
本当の希望があり、「神を信じる」ということの、真実の意味がしめされてい
たのでした。本当の希望、「神を信じる」とは、神がわたしを助けてくれるこ
とを信じるのではありません。
 キリスト教の信仰とは、「神がその御計画を必ず達成されること、そして、
神の御憐れみによって、私にもそのおこぼれがいただけるかもしれない事を信
じる」のです。
 もともと、何らの取り柄をも持たない私たちです。本来でしたら、滅びて当
然です。なのに、もしも、救いのおこぼれをいただけるとしたら、いや、いた
だけなくとも、その希望に生きることができたとしたら、それだけで、十分に
幸せだったのではないでしょうか。

(この項、完)


第106回「使徒言行録27章27〜32節」
(15/1/11)(その1)

27〜32節「十四日目の夜になったとき、わたしたちはアドリア海を漂流してい
た。真夜中ごろ船員たちは、どこかの陸地に近づいているように感じた。そこ
で、水の深さを測ってみると、二十オルギィアあることが分かった。もう少し
進んでまた測ってみると、十五オルギィアであった。船が暗礁に乗り上げるこ
とを恐れて、船員たちは船尾から錨を四つ投げ込み、夜の明けるのを待ちわび
た。ところが、船員たちは船から逃げ出そうとし、船首から錨を降ろす振りを
して小舟を海に降ろしたので、パウロは百人隊長と兵士たちに、『あの人たち
が船にとどまっていなければ、あなたがたは助からない』と言った。そこで、
兵士たちは綱を断ち切って、小舟を流れるにまかせた。」

 クリスマス以降、年末から年始にかけて、皆さま、新しい年は「このような
希望に生きよう」と、新たな出発に期していらっしゃるところ、聖書の方は漂
流話で恐縮でございます。ちょうど、今の日本の歩みを暗示しているようで、
暗澹たる思いもするのですが、そのような現実の中で、御言葉を通して、少し
でも希望を見い出すことができれば、と願っております。
 さて、先週は、久しぶりにお出でになられた方も多かった中で、お休みにな
られた方も多かったのですが、この漂流話のどん底でございました。少しだけ
振り返って見ますと、
 21節、「人々が長い間、食事をとっていなかった」その時、これは、前回も
申し上げたように、食糧が無くなったのではなく、船酔いで、食べ物を取るこ
とができず、胃液を吐き出す塗炭の苦しみの中に人々があったときのことでご
ざいます。
 突如、その中で、船の中では一番低い位置にある、囚人の一人、パウロが、
やおら立ち上がり、人々、船員、乗客、そして兵士たちに励ましの言葉を語る
場面でございます。
 まず、私たちは、そんなことがあるんかいな、囚人がリーダーになるなどと
言うことがあるのかいな、と思いますが、阪神淡路大震災の時の出来事が「あ
る」ということを証明いたしました。
 更に、一囚人パウロの言うことなぞに人々が耳を傾けることなどあるんかい
な、という疑問を抱くわけですが、ここは、パウロの演説自体から、「ある」
ということを証明いたしました。これは、名演説なのです。
 まず、パウロは、皆、特に船のリーダーたる船員、そしてサブリーダーたる
百人隊長を始めとする兵士たちの、最も痛いところを衝きます。
 「皆さん、わたしの言ったとおりに、クレタ島から船出していなければ、こ
んな危険や損失を避けられたに違いありません。」全くそのとおりであります。
断食祭以後の航海は危険である、とのユダヤ教の言い伝えをパウロは、人々に
伝えたのに、人々は耳を傾けなかったのです。
 その上で、「すべての人が助かる」という、パウロが昨夜天使から受けた使
信を伝えます。人々はどんなに喜んだことでしょうか。希望を与えられたこと
でしょうか。
 しかし問題はその先、その希望の根拠はいったいどこにあるのか、という問
題です。
 それは、要約すれば、「パウロは、一囚人として皇帝の前に出頭することに
なっている。それは、神がお決めになられたことだから、必ずそのとおりにな
るのであって、よって、一緒に船に乗っている全員も助かるのだ」というもの
でした。

(この項、続く)



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