2018年08月26日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第102回「使徒言行録27章1〜8節」
(14/12/7)(その1)

1〜「わたしたちがイタリアへ向かって船出することに決まったとき、パウロ
と他の数名の囚人は、皇帝直属部隊の百人隊長ユリウスという者に引き渡され
た。わたしたちは、アジア州沿岸の各地に寄港することになっている、アドラ
ミティオン港の船に乗って出航した。テサロニケ出身のマケドニア人アリスタ
ルコも一緒であった。翌日シドンに着いたが、ユリウスはパウロを親切に扱い、
友人たちのところへ行ってもてなしを受けることを許してくれた。そこから船
出したが、向かい風のためキプロス島の陰を航行し、キリキア州とパンフィリ
ア州の沖を過ぎて、リキア州のミラに着いた。ここで百人隊長は、イタリアに
行くアレクサンドリアの船を見つけて、わたしたちをそれに乗り込ませた。幾
日もの間、船足ははかどらず、ようやくクニドス港に近づいた。ところが、風
に行く手を阻まれたので、サルモネ岬を回ってクレタ島の陰を航行し、ようや
く島の岸に沿って進み、ラサヤの町に近い「良い港」と呼ばれる所に着いた。」

 21章から始まりました、パウロのエルサレムでの長い長いユダヤ教徒との葛
藤を経て、いよいよパウロは、ローマへの旅路に出発することとなりました。
使徒言行録の大きな区切りです。
 しかし、使徒言行録の著者は、これを「大きな区切り」とは見ておりません。
思い出していただけますでしょうか。使徒言行録の著者ルカは、教会の歴史の
大きな区切りの時に「そのころ(原語で「エン・タイス・ヘーメライス・タウ
タイス)」という語を用いて、新しい時代の到来を、読者に伝えていました。
 最初は、1:15でした。1:15を見ていただければ分かるとおり、イエスの昇
天後、ペトロを中心に、つまり12弟子を中心に教会が形成されていた時代です。
 第二は、6:1です。「そのころ、弟子の数が増えてきて、ギリシア語を話す
ユダヤ人から、ヘブライ語を話すユダヤ人に対して苦情が出た。」というとこ
ろです。ヘンなところに「そのころ(原語で「エン・タイス・ヘーメライス・
タウタイス)」があるなあ、と思われるかもしれませんが、そうではありませ
ん。ペンテコステを経て、多くの人が教会のメンバーに加えられて、そして、
教会が、ユダヤ人はユダヤ人なのであるが、ディアスポラ(外国在住)のユダ
ヤ人も加えられて再出発した時代の到来をこの語は告げているのです。
 そして、三番目は、11:27です。「そのころ、預言する人々がエルサレムから
アンティオキアに下って来た。その中の一人のアガボという者が立って、大飢
饉が世界中に起こると“霊”によって予告したが、果たしてそれはクラウディ
ウス帝の時に起こった。そこで、弟子たちはそれぞれの力に応じて、ユダヤに
住む兄弟たちに援助の品を送ることに決めた。」とあります。これのどこが
「そのころ(原語で「エン・タイス・ヘーメライス・タウタイス)」か、と思
われるかも知れませんが、迫害を逃れていった信徒によってアンティオキアの
教会が形成されましたが、そこで初めて異邦人信徒がユダヤ人信徒と対等の立
場で受け入れられることとなりました。そして、この教会を起点として、異邦
人伝道が開始されることとなったのです。異邦人教会とユダヤ人教会が対等の
立場で合い携えていく時代の到来を、この「そのころ(原語で「エン・タイス・
ヘーメライス・タウタイス)」は告げ知らせているのです。
 この後、使徒言行録には「そのころ(原語で「エン・タイス・ヘーメライス・
タウタイス)」がしばらく出てきませんで、私たちは、「そのころ(原語で
「エン・タイス・ヘーメライス・タウタイス)」をすっかり忘れてしまいまし
た。しかし、実際出てこなかったのです。
ということは、どういうことであるか、と言えば…
 その後、パウロの三度にわたる異邦人伝道があり、エルサレムでの困難な説
得があり、この説得は、前回触れたように、アグリッパ王の「回心」において
結末するのですが、これらはすべてエルサレム教会とアンティオキア教会の二
極体制の下での出来事として、使徒言行録の著者ルカは捉えている、というこ
となのです。
 ですから、ユダヤ人の説得を終えて、(パウロが)ローマに向かうとは言っ
ても、ユダヤ人を捨てて、ユダヤ人伝道をあきらめてローマに向かう、という
ことではなく、あくまでも、アンティオキア教会の延長線上に、つまり、旧約
の時代以来、神の選民とされてきたユダヤ人と、今まで見捨てられてきた異邦
人とが、共に救いに与る時代の出来事としてルカは捉えている、ということな
のです。ユダヤ人が忘れられているわけではない、でも今は異邦人伝道に…し
かもローマ伝道に集中して、ということです。

(この項、続く)



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