2018年05月27日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第95回「使徒言行録25章13〜22節」
(14/9/28)(その3)
(承前)

 そして、神聖な行事を見られないために、のぞかれないように、塀を造った
ことに、治安上の観点からのみ怒ったフェストゥス、二人は、宗教行事に関心
がない点で共通していたのではないでしょうか。宗教行事の神聖性への畏れは、
全く欠落しているのです。
 もちろん、フェストゥスは正義の人ですから不正には怒りますが、宗教に関
心があるわけではないのです。
 この二人のなした会話として14節〜22節を見ると、私たちは、というか読者
はだれでも違和感を禁じ得ないのです。
 ここでは、二人は、宗教に興味を持っています。フェストゥスは、ユダヤ教
とキリスト教の論争点まで知っています。
 そして、この裁判がそもそも騒乱罪についてのものであることを重々承知の
はずなのに、事実に反して、宗教上の対立として捉えています。
 ヘロデ・アグリッパU世までが、パウロに興味を持ち、話を聞きたい、とま
で言っています。
 こんなことってあるんでしょうか。
聖書学者の中には、この場面自体、ルカの創作である、と言う人もいます。し
かし、もしそうでなかったとしても、「二人ないし三人の会話をルカが知るこ
とはできないはずである」という点では聖書学者は一致しています。少なくと
も、この会話の内容は、ルカの創作ないしは推測にすぎないのです。
 しかし、ということはどういうことか、と言えば、ここに出てくる、フェリ
クスとヘロデ・アグリッパU世とベルニケとは、実像ではなく、ルカがそう
あってほしい、と望む三人の像だ、ということです。
 三人とも、詳しく説明しましたように、極めつけの俗物です。しかし、それ
でもキリスト教に興味を持つ人物になってほしいし、なりうる、ルカはそのよ
うに確信しているのではないでしょうか。
 私たちは、ルカのその思いを受け止めた上で、この箇所を受け止めたいもの
です。

(この項、完)


第96回「使徒言行録25章23〜27節」
(14/10/5)(その1)

23〜27節「翌日、アグリッパとベルニケが盛装して到着し、千人隊長たちや町
のおもだった人々と共に謁見室に入ると、フェストゥスの命令でパウロが引き
出された。そこで、フェストゥスは言った。『アグリッパ王、ならびに列席の
諸君、この男を御覧なさい。ユダヤ人がこぞってもう生かしておくべきではな
いと叫び、エルサレムでもこの地でも私に訴え出ているのは、この男のことで
す。しかし、彼が死罪に相当するようなことは何もしていないということが、
わたしには分かりました。ところが、この者自身が皇帝陛下に上訴したので、
護送することに決定しました。しかし、この者について確実なことは、何も陛
下に書き送ることができません。そこで、諸君の前に、特にアグリッパ王、貴
下の前に彼を引き出しました。よく取り調べてから、何か書き送るようにした
いのです。囚人を護送するのに、その罪状を示さないのは理に合わないと、わ
たしには思われるからです。』」

 今日の話を理解していただくためには、前回のところを振り返る必要があり
ます。
 前回のテキストは、総督フェストゥスと、その就任祝いに駆け付けたアグ
リッパ王とその姉妹ベルニケとの間で交わされた「密談」が中心でした。
 そして、その密談の中で、フェストゥスはそもそもパウロに非常に興味を
持っており、その信仰にも興味を持っており、アグリッパ王までもが興味を持
つようになり、そして、その結果、アグリッパ王とパウロが会う機会が設定さ
れた、というところまで行った、というのが、先週の記事内容でした。
 ほんとうだったら素晴らしいことです。
ところが、ここが大変に重要なところなのですが、この密談の内容は、使徒言
行録の著者ルカの想像に過ぎない、ということなのです。皆さん、考えてみて
ください。日本の総理官邸で、総理と自民党の幹事長が密談をしている。その
内容を第三者はだれも知ることができないのです。記者は、何が話されたか、
興味津々ですから、密談が終わった途端寄ってたかって、「幹事長、何を話し
ていたんですか。あれですか。これですか?」と何とかその内容を引き出そう
とするでしょう。それで「うーん」だとか、「ふん」だとか、その答えのニュ
アンス、表情などから読み取って、記事にしますが、本当のところは、実は全
く分からないのです。

(この項、続く)


(C)2001-2018 MIYAKE, Nobuyuki & Motosumiyoshi Church All rights reserved.