2018年05月20日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第95回「使徒言行録25章13〜22節」
(14/9/28)(その2)
(承前)

 ところが、ドルシラの美貌に一目ぼれしたフェリクスがこの結婚に横槍を入
れて、つまり略奪して、ドルシラを自分の3人目の妻として迎えました。ユダヤ
婦人が異邦人と結婚する場合には、相手に割礼を受けさせねばならなかったの
ですが、ドルシラの方も、アジズとの結婚に不満があったため、フェリクスの
割礼なしに、律法違反をして再婚してしまったのでした。
 ということで、ドルシラは律法違反と言う負い目を負っていたのです。
ベルニケはどうでしょうか。彼女は叔父のカルキスのヘロデと結婚し、彼が死
ぬまで、ともに暮らしました。その意味ではまともな人生を歩んだ、と言えま
す。
 しかし、夫の死後、兄ヘロデ・アグリッパU世と共に暮らし、ヨセフスによ
れば、この二人の間には「悪い噂」が絶えませんでした。彼女は後にティトゥ
ス帝の情夫となった、とも言われています。スキャンダル一掃のために、キリ
キアの王ポレモと結婚しますが、間もなく、兄のところへ戻って来てしまいま
した。
 ベルニケも、ドルシラに負けず劣らず、スキャンダラスな女性です。しかし、
ドルシラのように、律法違反を責められたわけではなく、ただひたすら、自己
の欲望のままに生きた人だったのではないでしょうか。キリスト教に関心を持
つ必要も動機も見いだせません。
 さて、この二人が、フェストゥスのところへ表敬訪問に来て、なされた会話
が、本日のテキストの残りの部分です。
 14節途中〜22節「フェストゥスはパウロの件を王に持ち出して言った。『こ
こに、フェリクスが囚人として残していった男がいます。わたしがエルサレム
に行ったときに、祭司長たちやユダヤ人の長老たちがこの男を訴え出て、有罪
の判決を下すように要求したのです。わたしは彼らに答えました。「被告が告
発されたことについて、原告の面前で弁明する機会も与えられず、引き渡され
るのはローマ人の慣習ではない」と。それで、彼らが連れ立って当地へ来まし
たから、わたしはすぐにその翌日、裁判の席に着き、その男を出廷させるよう
に命令しました。告発者たちは立ち上がりましたが、彼について、わたしが予
想していたような罪状は何一つ指摘できませんでした。パウロと言い争ってい
る問題は、彼ら自身の宗教に関することと、死んでしまったイエスとか言う者
のことです。このイエスが生きていると、パウロは主張しているのです。わた
しは、これらのことの調査の方法が分からなかったので、「エルサレムへ行き、
そこでこれらの件に関して裁判を受けたくはないか」と言いました。しかしパ
ウロは、皇帝陛下の判決を受けるときまで、ここにとどめておいてほしいと願
い出ましたので、皇帝のもとに護送するまで、彼を止めておくように命令しま
した。』そこで、アグリッパがフェストゥスに、『わたしも、その男の言うこ
とを聞いてみたいと思います』と言うと、フェストゥスは、『明日、お聞きに
なれます』と言った。」
 フェストスとヘロデ・アグリッパU世とは、仲の良い関係にありました。二
人の関係がそうであったことを示唆する出来事がヨセフスの「古代誌」の中に
記されています。9月14日の説教で触れたばかりです。
 ヘロデ・アグリッパU世の宮殿は、エルサレム神殿の隣にありました。そし
て、そのころ、ヘロデ・アグリッパU世は、その宮殿の中に立派な食堂を造り
ました。ところが、その食堂からは、エルサレムの市中が見えるばかりではな
く、神殿の中、特に犠牲の行事が手に取るように見えたのです。そして、王は
食堂の椅子にもたれては、神殿内の行事、特に犠牲の行事を見ることが事の他、
好きだったのです。
 しかし、これは、神殿で儀礼を行っている聖職者たちにとっては不愉快なこ
とでしたので、聖職者たちは、犠牲の行事をヘロデ・アグリッパU世に見られ
ないために、神殿の西方の柱廊の上に高い壁を立てて、目隠しをしてしまった
のです。
 当然のことながら、ヘロデ・アグリッパU世は、怒りました。しかし、総督
フェストスも怒ったのです。なぜなら、この壁は、神殿での出来事を監視する
衛兵の視線もさえぎってしまったからです。
 フェリクスとヘロデ・アグリッパU世は、神殿の目隠しの撤去に共闘したの
です。そして、その動機は決して宗教的なものではありませんでした。
 エルサレムの神殿の中で、行われている神聖な行事を、「食事のときの楽し
み」として、ちょうど私たちが食事のときになんとなく見るテレビのようにし
て「見物する」ヘロデ・アグリッパU世、真面目に宗教行事をしている聖職者
たちが怒るのも当然です。

(この項、続く)



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