2018年05月13日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第95回「使徒言行録25章13〜22節」
(14/9/28)(その1)

 前回のところで、フェストゥスによる「パウロ裁判」の結果が出ました。そ
れは有罪だ、とか無罪だ、という判決が下されたわけではなく、「(宗教上の
問題なのだから)エルサレム(サンヒドリン)での裁判」との決定が下された
わけでもなく、パウロの、自分の意志による「皇帝への上訴」を認める、とい
うことでした。
 よって、パウロはローマへ護送されることとなりました。上訴が決まったの
ですから、直ちに護送されるべきです。ところが、直ちには護送されませんで
した。そして、パウロのアグリッパ王への謁見、という出来事が入ることとな
りました。今日からしばらく、「パウロのアグリッパ王への謁見」の物語が続
くこととなります。
 しかし、「パウロ裁判」と全く関係のない「パウロのアグリッパ王への謁見」
の物語がなぜここに挿入されてしまったのでしょうか。早くローマへ行けばい
いのに…。
 この問いについては、おいおい考えていくとして、まずは事実経過から見て
いくことといたしましょう。

13〜14節途中「数日たって、アグリッパ王とベルニケが、フェストゥスに敬意
を表するためにカイサリアに来た。彼らが幾日もそこに滞在していたので」

 事は、「パウロ裁判」の結論は出ましたが、まだ、護送がなされないうちに、
フェストゥスの許へアグリッパ王とその姉妹ベルニケが表敬訪問をしたところ
から始まりました。
 まずは、アグリッパ王とその姉妹ベルニケとは何者なのか、そこから話を始
めていくことといたしましょう。
 アグリッパ王、正しくはヘロデ・アグリッパU世は、あのヘロデ大王からす
ると、ひ孫にあたる人物です。父のヘロデ・アグリッパT世については、使徒
言行録12章でこの人物が出て来たときに詳しく触れました。2013年5月5日の
ことです。
 ヘロデ・アグリッパT世は、41年に、それまで与えられていたガウランテス、
テラコニテスに加えて、ユダヤとサマリヤの王となった人物です。
 ローマ育ちで、ガイウス帝(37〜41在位)、クラウディウス帝(41〜51在位)
とも知己であり、しかも、ユダヤの本来の王家であるマカベア家の血も引くと
いうことで、ローマ式の秩序ある支配をすると期待されたところが、とんでも
ない。教会の迫害を始め、ヨハネの兄弟ヤコブは殉教し、ペトロは捕えられて
しまいました。
 ところが、使徒言行録もヨセフスも共に伝えているので、ユダヤ中に、そし
て世界中に衝撃的な出来事だったのだ、と思われますが、44年に式典の最中に、
ヨセフスによれば「心臓に刺すような痛みを覚えて」、使徒言行録によれば
「蛆に食い荒らされて」、急死してしまうのです。使徒言行録によれば、これ
は「神に栄光を帰さなかった」ことへの神の罰でした。
 その後、クラウディウス帝は、ヘロデ・アグリッパU世に、すぐには父親の
跡を継ぐことを許しませんでした。ユダヤは一旦叔父、「カルキスのヘロデ」
の領土となった後、52年になって、叔父の死と共に、エルサレム神殿の管理権
と大祭司の任命権と共に、ヘロデ・アグリッパU世に与えられました。
 この人物は、父のように教会の迫害はしていません。ヘロデ・アグリッパU
世の時代にも、迫害はありました。が、主の兄弟ヤコブなど、教会のメンバー
を殺害したのは、大祭司アナノスでした。むしろ、ヘロデ・アグリッパU世は、
この事件の後、大祭司アナノスの行為をとがめ、わずか3カ月で、大祭司アナ
ノスを解任した、とヨセフスは伝えています。
 また、ユダヤ戦争に際しては、ローマ方について、92年ないしは93年(一説
には100年)まで生きながらえ、しかも、西ヨルダンの領地を確保しました。
ヘロデ・アグリッパT世のように、ユダヤ人、ユダヤ教徒と気持ちを一つにし
て、キリスト教を弾圧することはなかったのですが、かといってキリスト教に
理解があったということもなく、ごく普通の世俗的な人間であったのではない
か、と思われます。
 ヘロデ・アグリッパU世と共にフェストゥスに表敬に来たベルニケは、ヘロ
デ・アグリッパU世の姉妹です。そして、彼女は、ついこのあいだ、使徒言行
録24:24に出て来たフェリクスの妻ドルシラの姉妹でもあります。8月31日、
ついこないだの説教です。
 ドルシラの物語を繰り返すと次の通りです。
ドルシラは、ヘロデ・アグリッパT世の娘で、大変な美人でした。アンティオ
コス王・エピファネスの許嫁であったのですが、アンティオコス王・エピファ
ネスが割礼を受けることを拒否したので、この婚約は破棄されました。そして、
兄ヘロデ・アグリッパU世によって、割礼を受けることを承諾したエメスの王
アジズと結婚させられました。

(この項、続く)



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