2018年04月29日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第94回「使徒言行録25章6〜12節」
(14/9/21)(その1)

6〜12節「フェストスは、八日か十日ほど彼らの間で過ごしてから、カイサリ
アへ下り、翌日、裁判の席に着いて、パウロを引き出すように命令した。パウ
ロが出廷すると、エルサレムから下って来たユダヤ人たちが彼を取り囲んで、
重い罪状をあれこれ言い立てたが、それを立証することはできなかった。パウ
ロは、『私は、ユダヤ人の律法に対しても、神殿に対しても、皇帝に対しても
何も罪を犯したことはありません』と弁明した。しかし、フェストスはユダヤ
人に気にいられようとして、パウロに言った。『お前は、エルサレムに上って、
そこでこれらのことについて、わたしの前で裁判を受けたいと思うか。』パウ
ロは言った。『私は、皇帝の法廷に出頭しているのですから、ここで裁判を受
けるのが当然です。よくご存じのとおり、私はユダヤ人に対して何も悪いこと
をしていません。もし、悪いことをし、何か死罪に当たることをしたのであれ
ば、決して死を免れようとは思いません。しかし、この人たちの訴えが事実無
根なら、だれも私を彼らに引き渡すような取り計らいはできません。私は皇帝
に上訴します。』そこで、フェストスは陪審の人々と協議してから、『皇帝に
上訴したのだから、皇帝のもとに出頭するように』と答えた。」

 いよいよ、フェストスによるパウロ裁判が始まりました。今日は、その場面
です。
 そもそもこの裁判は、パウロが騒乱罪ないしは騒乱誘発罪で逮捕、告訴され
たことから始まった裁判でした。パウロの「自分は、無罪である」との主張は
一貫しています。私たちもそう思います。
 しかし、裁判長が、フェリクスからフェストスに替わりました。それに伴っ
て、パウロを告発する側であるユダヤ人、ユダヤ教当局者の姿勢も大きく変わ
りました。今日はそこのところから、先週を振り返りつつ触れていくこととい
たしましょう。
 「パウロを告発する側であるユダヤ人」と言われますが、実は、パウロと本
当に対決したのは、「アジア州から来たユダヤ人」だけでした。
 エルサレムのユダヤ人は、パウロと、実は、対決していません。むしろ、
ファリサイ派などは、パウロについて「この人には何の悪い点も見いだせない」
と言ったくらいでした。つまり、パウロ裁判に本来、本気で臨む気など、全く
なかったのです。
 なのに、フェリクスが裁判長である時に、大祭司アナニアが、長老数名と弁
護士テルティロなる人物まで引き連れて、出廷してきたのは、実は、この裁判
をネタに、裁判長である、総督フェリクスを追い詰めるためだったのです。
 よって、裁判長が、フェリクスからフェストスに替わった今、ユダヤ教側の
姿勢としては、まず第一に、「もう裁判を継続する気はない。」ということで
す。
 かと言って、パウロ追及をもうやめるか、と言うとそうではなくて、パウロ
と本当に対決したのは、「アジア州から来たユダヤ人」だけだとしても、ユダ
ヤ教にとってパウロは「目の上のたんこぶ」には変わりありませんから、自分
たちで処理してしまおう、と考えた、と考えられます。最も手っ取り早い手段、
暗殺です。
 なのに、「正義漢」フェストスによって裁判に引き戻されてしまったのです
から、いやいや裁判に臨んでいる。
 それは、出廷したのが、「エルサレムから下って来たユダヤ人たち」という
素性のわからない人々であったことから、明らかです。たぶん、「しょうがな
いなあ」ということで、次長クラスを派遣してきたのでしょう。
 追及も迫力を欠いたものとなったことでしょう。「重い罪状をあれこれ言い
立てたが、それを立証することはできなかった」ということで、「重い罪状」
とは、「律法違反」、「神殿冒涜」ということで、事柄は重大ですが、何の証
拠もない話であったわけです。
 そして、ユダヤ教側は、裁判の結果についても、あまり期待してはいなかっ
たのではないでしょうか。
 ところが、ところが、パウロの「型通りの」弁明が終わった後、フェストス
が、思いもかけない発言をしたのです。
9節「しかし、フェストスはユダヤ人に気にいられようとして、パウロに言っ
た。『お前は、エルサレムに上って、そこでこれらのことについて、わたしの
前で裁判を受けたいと思うか。』」という訳です。
 この発言は問題の多い発言です。今日は、この発言について、深く学んでい
くことといたしましょう。

(この項、続く)



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