2018年04月01日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第92回「使徒言行録24章27節」
(14/9/7)(その1)

27節「さて、二年たって、フェリクスの後任者としてポルキウス・フェストス
が赴任したが、フェリクスは、ユダヤ人に気に入られようとして、パウロを監
禁したままにしておいた。」

 しばらく、福音宣教に労苦しているパウロ自身ではなく、この世の世界に生
きている、ローマの総督の話ばかりが続きます。
 しかし、なぜ、ルカがこれだけ執拗に、ローマやユダヤ教の事情について記
しているか、と言えば、これは、私も毎回申し上げているように、福音宣教は、
理想的な「状況」が設定されて、初めて行われうるのではなく、むしろ、この
世の状況の真っただ中においてなされる、いや、この世の状況の中で、神の国
が育てられていく、ということを、まさに、種まきのたとえそのものが起こっ
ている、ということを伝えようとしているのではないか、と思うものでありま
す。
 さて、本題です。
裁判にかけられて、騒乱罪ないしは騒乱誘発剤の無実の証明を得るはずのパウ
ロでした。ところが、総督フェリクスの思惑によって、判決言い渡しは延期さ
れてしまいました。どのような思惑か、と言えば、これは、聖書外資料、ヨセ
フスの「古代誌」からの情報によって分かることなのですが、フェリクスと、
ユダヤ人、ユダヤ教徒、特に大祭司一族とは、厳しい対立関係にあった、とい
うことなのです。そのため、パウロ裁判は、パウロそっちのけで、大祭司一族
による、総督フェリクス追い落としの機会として用いられた可能性が高いので
す。
 そのため、パウロ無罪が明々白々の裁判なのですが、もしも、フェリクスが
無罪判決を出せば、「ユダヤ人の言い分を聞かない」ということで、訴えられ、
もしも有罪判決を出せば、「誤った判決を出した」ということで訴えられる、
つまり、実はパウロではなくフェリクスが追い詰められた、裁判だったのです。
 よって、フェリクスは何としてでも、つまり、理由にならない理由をあげて
でも判決言い渡しを引き延ばさざるを得ません。それで、「千人隊長リシアが
下って来てからにする」とか何とか言って、リシアが下って来た気配は全くあ
りませんが、判決を引き延ばしました。実はフェリクスは、自分の身を守るた
めに必死だったのです。
 判決延期期間のことについては、先週学びましたが、同じく、律法に違反し
て結婚をしてしまったという負い目をユダヤ人に対して持つ、妻のドルシラと
共に、度々パウロを呼び出して、話を聞いた、ということです。ルカの書いて
いる「賄賂を得よう」という下心については、ルカの誤解でしょう。おそらく
キリスト教をもってユダヤ教に対抗しようとしたのでしょう。
 しかし、信仰ではなく、下心を持って神に近づこうとする者を、神は厳しく
拒否されます。パウロが、そんなに強調したわけではない、と思いますが、彼
らに義と節制と裁きについて語ると、恐れをなして逃げ出しました。
 こうして、パウロは、福音宣教のためそのものというよりは、この世の権力
者の思惑によって弄ばれ、無罪なのに放免されない、という事態が続くことと
なります。
 パウロがその間どのような思いでいたのか、記述がないので分かりませんが、
祈りつつ、忍耐強く、待っていたのではないでしょうか。
 さて、今日のテキストは、その後のことについて、です。短いところではあ
りますが、いくつかの重要な情報が述べられていますので、順に見ていくこと
といたしましょう。
 まず第一の情報は、パウロはフェリクスの在任中は、ずっと獄の中に入れら
れたままで、そのまま、フェリクスの退任を迎えてしまった、ということです。
 フェリクスは自分の身を守ることだけにこころを傾け、パウロは弄ばれただ
けであったことが、この時点で明確となりました。
 が、フェリクスはその後どうなったのでしょうか。使徒言行録には記述があ
りませんので、聖書外資料から補っておく必要があります。ここまでして自分
を守ろうとしたフェリクスは、自己保身の甲斐あって幸せになれたのでしょう
か。

(この項、続く)



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