2018年03月25日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第91回「使徒言行録24章24〜26節」
(14/8/31)(その2)
(承前)

 そこで、やっと今日のテキストに入れることとなりました。フェリクスが、
自己保身のために行った「裁判(判決言い渡し)延期」の間に何をしていたか、
が本日のテキストに書かれていることです。
 それは、一つは「ユダヤ人である妻のドルシラと一緒に来て、パウロを呼び
出し、キリスト・イエスへの信仰について話を聞いた」こと、そして第二に、
パウロを「度々呼び出しては話し合っていたことでした。
第二の方から先に取りあげましょう。
 パウロは、おそらく「裁判(判決言い渡し)延期」の本当の理由を知らない
でしょうから、あくまでも主の導きを信じて、「淡々と」過ごしていたと思い
ますし、そうせざるを得なかったでしょう。しかし、総督(裁判長)がしばし
ば呼び出して話したい、と言う。それに対しては、なぜ、フェリクスが度々呼
び出すのかわからなかったとしても、誠実に対応していたことと思います。
フェリクスは、なぜこのようなことをしたのでしょうか。
 ルカは、ここで「パウロから金をもらおうとする下心もあった」と、自己中
心的な、不正の臭いのする動機を挙げています。確かに、賄賂は紀元前59年に
制定された「レックス・ユリア・デゥ・レペトゥンデイス」で禁止されていま
すが、現実には横行していたかも知れません。
 が、この動機については、おそらく、フェリクスによる大祭司ヨナタン暗殺
の事情を知らないルカの「見誤り」でしょう。ここで、自身が法違反をすれば、
さらに彼の立場が追い詰められるであろうことは、フェリクスも重々承知して
いたことと思われます。
 ルカの言う不正の臭いのする動機が実はなかったとすると、フェリクスのキ
リスト教への関心は何だったのでしょうか。純粋なものだったのでしょうか。
下心は実はなかったのでしょうか。
 そうであってほしいことをわたしたちは願うのですが、残念ながら、フェリ
クスのキリスト教への関心は、別の下心に支配されていた、と考えざるを得な
いのです。
 フェリクスは、大祭司を殺害してしまった、という「負い目」をユダヤ人に
対して負っていました。どう追及されても仕方ありません。ところが、妻のド
ルシラも、ユダヤ人に対して、実は、大きな「負い目」を持っていたのです。
 ドルシラとフェリクスの結婚逸話は有名な話で、これもヨセフスの「ユダヤ
古代誌」に載っています。ドルシラは、ヘロデ・アグリッパの娘で、大変な美
人でした。アンティオコス王・エピファネスの許嫁であったのですが、アン
ティオコス王・エピファネスが割礼を受けることを拒否したので、この婚約は
破棄されました。ヘロデ家も一応ユダヤ人として生きていたので、律法の規定
の下にあったのです。そして、兄アグリッパ二世によって、割礼を受けること
を承諾したエメスの王アジズと結婚させられました。
 そこで、この結婚に横槍を入れて、つまり略奪して、ドルシラを自分の3人
目の妻として迎えたのが、ドルシラの美貌に一目ぼれしたフェリクスだったの
です。ドルシラの方も、アジズとの結婚に不満があったため、律法違反をして、
つまりフェリクスの割礼なしに、再婚してしまったのでした。
以上、ヨセフスの「ユダヤ古代誌」の伝えるフェリクスとドルシラの物語です。
 フェリクスは、そのドルシラを連れて、キリスト・イエスのことを聞きにパ
ウロのところへ来たのです。フェリクスはともかく、妻ドルシラまで共にパウ
ロの話を、しかもイエス・キリストへの信仰の話を聞きに来た動機は何なので
しょうか。
 ヨセフスの「ユダヤ古代誌」の情報から推測する限り、それは、ユダヤ人に
対して、と言うことは、ユダヤ教に対して負い目を持つ二人が、キリスト教で
もって自己を守ろう、と画策した、ということなのではないでしょうか。
 パウロは、二人のこの「切なる要望」に応えたでしょうか。応えていません。
応えるどころか、逆に冷や水を浴びせかけました。パウロが、普段好んでテー
マとする、信仰による義と救いではなく、神の義と、節制と終末の裁きと…、
この二人にとって、悔い改めが必要なことを、はっきりと伝えたのです。たと
え相手が自分の裁判に関わる裁判長であろうがどうであろうが、堂々と説くの
です。
 悔い改めのないところに、信仰も、救いもありません。このことは、たとえ、
どのような場であろうとも、説かれねばならないのです。
 この呼びかけに、ヨナの物語とは異なり、二人とも応えなかったことは、非
常に残念なことでした。

(この項、完)



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