2018年03月18日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第91回「使徒言行録24章24〜26節」
(14/8/31)(その1)

24節「数日の後、フェリクスはユダヤ人である妻のドルシラと一緒に来て、パ
ウロを呼び出し、キリスト・イエスへの信仰について話を聞いた。しかし、パ
ウロが正義や節制や来るべき裁きについて話すと、フェリクスは恐ろしくなり、
『今回はこれで帰ってよろしい。また適当な機会に呼び出すことにする』と
言った。だが、パウロから金をもらおうとする下心もあったので、度々呼び出
しては話し合っていた。」

 パウロの裁判後、いや、まだ判決が出されていないので裁判中ですが、の出
来事が今日のテーマです。
 今、(元住吉教会はまさにパウロと同じ状況、未決囚状態にあるのですが、)
パウロとしては、大いに不安の中にあるところです。
 ところが、そのパウロの不安と、そして不安定な状況とに関わりなく、裁判
長である、総督フェリクスは、パウロのことを全く考えない自分の思惑に基づ
いた動きをしていた、ということが今日の内容です。
 では、総督フェリクスは、なぜパウロのことを全く考えない自分の思惑に基
づいた動きをしていたのか、まず、そこのところから振り返って見ることとい
たしましょう。
 そもそもこの裁判は、パウロがユダヤ人の間に騒乱を引き起こした、ないし
は騒乱の原因となった、とのカドで逮捕されたことから始まった裁判です。騒
乱のもう一方の当事者であるユダヤ教側から、ルカの記述によれば、大祭司ア
ナニアが出頭し、そして被告のパウロと、双方の証言がなされました。
 大祭司アナニアの証言とされる告発は、非常に抽象的なもので、「いつ、ど
こで、だれが、なにを、…」を欠いた、「パウロは、ユダヤ教の分派の指導者
で、ともかく悪いやつなのだ」と言った具体性のないものです。
 一方、パウロの証言は、先週、この説教の中で証明しましたように、パウロ
がエルサレムに滞在した12日間で、パウロが騒乱を引き起こしたり、その原因
となる行動をとる余裕さえないことを、具体的に立証したものでした。
 ですから、だれが見ても、ここで、直ちに、「パウロ無罪」の判決が出され
ねばなりませんでした。
 ところが、総督フェリクスは、判決言い渡しを延期しました。
その理由として、フェリクスは、(パウロを逮捕した)千人隊長リシアが下っ
て来てから、とか、自身がキリスト教について詳しかったから、という理由を
挙げたことになっていますが、どちらも、「パウロ無罪」の判決を言い渡すう
えで、何ら関係のないことです。
 この、使徒言行録だけを読んでいる限りわけのわからない処置について、先
週の説教においては、聖書外資料、ヨセフスの「ユダヤ古代誌」からの情報を
もとに、実は、フェリクスの側に「よんどころない事情」があったことを明ら
かにしました。しかし、そこをすっ飛ばしますと、先週お出でになられなかっ
た方々のために、その点についても、少しだけ触れることといたしましょう。
 それは、ヨセフスの「ユダヤ古代誌」には、パウロ裁判のことはこれっぽっ
ちも触れられてはいませんが、もしこういう裁判があったとすれば、それは、
実はパウロを裁くための裁判ではなく、ユダヤ人(ユダヤ教徒)と総督フェリ
クスの対決の場であった、ということです。
 総督フェリクスの在任当時、アナニアは大祭司ではありませんでした。元大
祭司、すなわち祭司長の一人として裁判に出て来たことになります。なぜ、元
大祭司がわざわざ裁判の場に出て来たのでしょうか。それは、パウロのためで
は全くなく、総督フェリクスを追い詰めるためだったのです。
 原因は総督フェリクスがユダヤ人に対して抱えていた「弱み」です。総督
フェリクスは、当時の大祭司ヨナタンを、刺客を差し向けて暗殺してしまった
のです。それゆえ、大祭司一族は、フェリクスを告発し、失脚させるチャンス
をうかがっていたことと思われます。もし、パウロ裁判があったとすれば、い
いチャンスになったはずなのです。
 パウロがユダヤ教分派として、ユダヤ教当局にとって「厄介者」であること
には変わりありませんから、もし「無罪判決」が出れば、「ユダヤ人の言い分
を聞かない」と総督フェリクスを告発できます。
 一方、総督フェリクスが「有罪判決」を出せば、パウロの「無罪」は、ユダ
ヤ人でさえ受け入れざるを得ないものですから、「正しい判決をしなかった」
と総督フェリクスを告発することさえできるのです。
 もうお分かりでしょう。あなたが総督フェリクスだったら、判決を延期して
ほとぼりがさめるのを待つしかないのではないでしょうか。失脚、あるいは死
刑をも覚悟して正しい判決を出す決心をしない限り。

(この項、続く)



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