2018年03月04日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第90回「使徒言行録24章22〜23節」
(14/8/24)(その1)

22〜23節「フェリクスは、この道についてかなり詳しく知っていたので、『千
人隊長リシアが下ってくるのを待って、あなたたちの申し立てに対して判決を
下すことにする』と言って裁判を延期した。そして、パウロを監禁するように、
百人隊長に命じた。ただし、自由をある程度与え、友人たちが彼の世話をする
のを妨げないようにさせた。」

 さて、私たちは今どこにいるか、と申しますと、地中海沿岸の都市、カイサ
リアにおります。カイサリアという町は、都市は、その名のとおり、ローマ皇
帝(=カエサル)を記念して、実際に記念された皇帝はアウグストゥスですが、
ヘロデ大王によって建てられた町、都市です。
 位置的にはフェニキアに属し、異邦と言えば異邦ですが、イスラエルにあま
りに近く、隣で、イスラエルとは微妙な関係にあるところです(マルコによる
福音書7:24以下)。すなわち、信心深いユダヤ人もおれば、使徒言行録10章
に登場するコルネリウスは、そうです、この町に住んでいました。一方、純粋
の異邦人も住んでいる町でした。
 このカイサリアが、パウロの三回にわたる伝道旅行ではない、第四の伝道旅
行、すなわちローマ行の出発地となるのですが、では、そもそもパウロはなぜ
今カイサリアにいるのか、この点について、復習をかねて、明らかにすること
といたしましょう。
 それは、カイサリアにローマのユダヤ総督の官邸があり、そこでパウロは、
総督の裁判を受けていたからです。
 エルサレムで騒乱を起こした、いや、騒乱の原因となったカドで、疑いで千
人隊長に逮捕されたパウロです。千人隊長の公正な判断により、いきなり処刑
されることもなく、そして、千人隊長の勇気により、暗殺者の手からも守られ
て、今、カイサリアで、ローマ法に基づく正当な裁判を受けています。
 逮捕した当事者である千人隊長リシアは来ていませんので、論告求刑はあり
ませんが、リシアは「無罪である」との感触の手紙をしたためて、総督フェリ
クスに届けております。
 騒動の当事者であるユダヤ人とパウロからは、双方の訴え、証人喚問がなさ
れることと成りました。
 ユダヤ教側から証人に立ったのは、使徒言行録の著者ルカによれば、何と、
サンヒドリンの議長である大祭司アナニアでした。大祭司アナニアはパウロと
直接対峙しているわけではありませんし、また、サンヒドリンで合意が成立し
たとの記録もありませんから、その訴えは、極めて抽象的です。「この男は疫
病のような人間で、世界中のユダヤ人の間に騒動を引き起こしている者、「ナ
ザレ人の分派」の首謀者であります。この男は神殿さえも汚そうとしましたの
で逮捕(本当は逮捕ではない)いたしました。(23:5〜6)」というもので、
どの立場に立つユダヤ人でも共通して抱きそうな、パウロへの反感の最大公約
数、といったものです。
 この迫力のない証言に対してですので、パウロの証言も、歯がゆくて、歯が
ゆくて仕方のない弁論です。実はこっそりと、きちんと述べてはいたのですが、
ユダヤ人との間で最大の争点となった、イエス・キリストについても、異邦人
伝道についても全く触れていない「なまぬるい」弁論です。
 しかし、「騒動を起こしていない」という点については、証拠をあげて反論
していました。「エルサレム滞在は12日であること。そしてその間、騒動、扇
動を起こしたりしている余裕はない」という、だれが見ても、聞いても認めざ
るを得ない客観的事実です。
 ペッシュという学者が整理していますが、エルサレム滞在中のパウロは、本
当に騒動を起こしている余裕はありませんでした。
第1日目 エルサレム到着(21:17)
第2日目 ヤコブを訪問、そして懇談(21:18)
第3日目から9日目 7日間の清めの期間(21:27)
 第9日目 逮捕(21:33)
 第10日目 サンヒドリンへ出頭(22:30)
 第11日目 パウロへのテロ計画(23:12)
 第12日目 カイサリア到着(23:32)
 いかがでしょうか。少なくともエルサレムでは、だれが見ても、パウロが騒
動を起こしていないのは明々白々なのではないでしょうか。神殿冒涜に関して
も、目撃証言さえないとすると、他の証言の必要なく、パウロは「無罪」とな
るべきなのではないでしょうか。
 ところが、総督フェリクスは「パウロ無罪」の判決を下すことなく、判決言
い渡しを延期しました。そこから、今日のテキストが始まります。
 なぜなのでしょうか。
その理由は二つ、一つは、順序は逆となりますが、「千人隊長リシアが下って
くる(カイサリアへ来る)のを待つ」というものでした。一見慎重な対応に見
えるかも知れません。しかし、これはただの言い訳に過ぎない、ということは、
この後リシアが呼ばれた形跡すら全くないことからも明らかです。

(この項、続く)



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