2018年02月04日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第88回「使徒言行録24章1〜9節」
(14/8/10)(その1)

1節「五日の後、大祭司アナニアは、長老数名と弁護士テルティロという者を
連れて下って来て、総督にパウロを訴え出た。」

 今日のところは、カイサリアの総督フェリクスの下で、パウロの裁判が始
まったところ、そして、原告側の論告求刑の部分です。
 が、後で言いますが、この裁判自体に関して、非常に疑問点が多い。それは
後で触れるとして、まず、前後関係の確認から入ってまいりましょう。
 シカリオス、すなわち熱心党の手の者と考えられるグループから、非常に厳
しい暗殺計画をもって狙われたパウロですが、パウロの親族の機転と、ローマ
の千人隊長の正義感と勇気と行動力によって救い出され、夜を徹して、カイサ
リアに運びこまれ、命の危機は脱しました。
 これは、前回のところですが、行程の途中、アンティパトリスで歩兵が帰っ
てしまったり、到着した途端、パウロが総督に出身地をきかれる、といった、
ひやひやする出来事もありましたが、とにもかくにも、総督の下で、ローマ法
に基づく裁判が行われるところまでこぎつけた、というところで、本日のテキ
ストに入るわけです。
 多くのことが期待される裁判なのですが、私たちはのっけから多くのなぞに
直面することとなります。
 まず、裁判が始まるまでに5日かかりました。この5という数字は何なので
しょうか。原告側が手続きを整えるために、それだけの日数がかかったので
しょうか。もちろん、ゼロから訴訟を進めるならば5日でもとうてい足りない
でしょう。しかし、パウロへの訴えはサンヒドリンでも想定されていて
(23:6)、直ちに、訴えが行われてもおかしくないのです。
 この5日という中途半端な数字には、古代から疑問がもたれて来たらしく、
写本の中には、「数日」としているものもあります。
 で、正解は何なのか、ということですが、推測ではありますが、当時の裁判
の常識からして(その常識が現代の私たちにはよくはわからないのですが)、
「正式の裁判が行われましたよ」ということを示すために、著者ルカがそのよ
うに書いた、と考えられるのです。正式の裁判の準備のための常識的日数とし
て、です。
 よって、この裁判の記録は、事実このような形で裁判が行われた、という記
録ではなく、正式の手続きをもって、きちんと行われましたよ、という「議事
録」である、ということになります。
 正式の裁判とすると、告発人、すなわち、原告は、ユダヤ人を、ユダヤ教徒
を公的に代表する人物でなければなりません。すると、サンヒドリンの議長で
あるところの大祭司ということになります。
 そのとおり、大祭司が告訴人として現れて、しかも「弁護士」を伴って現れ
て、裁判が始まりました。
 しかし、私たちは、その「絵にかいたような」裁判の設定に、「これ、本当
にあったのかな」という疑問、最大の疑問を覚えるのです。
 それは、告訴人についてです。
エルサレムでパウロをもっとも激しく糾弾していたのは誰でしょうか。時間の
順序は逆となりますが、第一に、シカリオス、熱心党と考えられる暗殺者です。
千人隊長は、まさにこのグループからパウロを救いだし、カイサリアへ連れて
きて、このグループの人に「暴力でなく、裁判で」と訴えたのではなかったの
でしょうか。
 ですから、ここで本当に裁判が行われたとしたら、シカリオス、熱心党と考
えられる暗殺者が告訴人にならないとおかしいのです。
 しかし、シカリオス、熱心党と考えられる暗殺者グループは、極端な、実力
行使も旨とする「反ローマ主義者」ですから、裁判で総督に判断を委ねるなど
ということは、決して決して考えられません。告訴人はいつまでたっても現れ
ないでしょう。
 パウロに反発した第二のグループは、アジア州から来たユダヤ人です
(21:27)。この人々も群衆を扇動しパウロを殺そうとしました。そして、ア
ジア州に住んでいるので、反ローマ主義者ではありませんから、裁判に訴えて
もおかしくはありません。でも、後でパウロ自身が行っているように、子の人
たちの影はないのです。
 次に、大祭司アナニアが告訴人になる、ということがあり得ないことを言い
ます。
 つまり、大祭司アナニアが、サンヒドリンの代表としてでもパウロを訴える
ことはないということです。
 まず、サンヒドリンは、たしかに、パウロに弁明の機会を与えるため、とは
言え、開かれました。そして、サンヒドリンは裁判所ですから、パウロを訴え
る決定をすることも可能でしたる。しかし、実際は、ファリサイ派がパウロ支
持に回ってしまいました(23:9以下)。サンヒドリンは、パウロに対して、
何の決定もできなかったのです。



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