2018年01月28日
〔使徒言行録連続講解説教〕
第87回「使徒言行録23章31〜35節」
(14/8/3)(その2)
(承前)
この時、歩兵たちはどうだったのでしょうか。ローマの市民権を持っている
とは言え、一介のユダヤ人の保護のために、オレタチがそこまで危険を冒し、
労力を提供する必要があるのか、と思う者はいなかったのでしょうか。
アンティパトリスは、エルサレムからカイサリアに行く途中にあった町で、
ヘロデ大王が、その父、アンティパテルの記念に建設した町ですが、今はなく、
正確な位置は分かりません。エルサレムから60qとも、62qとも、72qとも言
われます。一晩で着くのは不可能ですが、ともかく、そこまでは、歩兵は我慢
して、パウロをとにもかくにも護送しました。
でも、そこから先が不思議です。千人隊長から命令を受けた二人の百人隊長
は、歩兵たちに「パウロのカイサリアまでの護送(安全な)」を命令したはず
です。ところが、アンティパトリスからカイサリアまでは、まだ40qもあると
いうのに、歩兵たちは、ここで帰ってしまうのです。残されたのは、騎兵、パ
ウロを馬に乗せるため、と補助兵だけです。補助兵とは、槍だけを武器として
持った兵のことです。このような防備で大丈夫なのでしょうか。
私は、考えすぎかもしれませんが、ここに、千人隊長の真面目さに対して、
部下の兵士たちの「不真面目さ」を見る気がするのです。少なくとも、千人隊
長と違って、本気でパウロを守る気がありません。要するに、この任務に「士
気」を感じていないのです。無事エルサレムを脱出することができたとはいえ、
私たちは、この兵士たちの「不真面目さ」に、今後のパウロの運命の不安材料
を感ぜざるをえないのです。
さて、カイサリアにやっとの思いで到着し、いよいよ総督の審問です。
33〜35節「騎兵たちはカイサリアに到着すると、手紙を総督に届け、パウロを
引き渡した。総督は手紙を読んでから、パウロがどの州の出身であるか、を尋
ね、キリキア州の出身だと分かると、『お前を告発する者たちが到着してから、
尋問することにする』と言った。そして、ヘロデの官邸にパウロを留置してお
くように命じた。」
歩兵たちが帰ってしまい、騎兵たち、と補助兵だけで護送されて無事カイサ
リアに到着することができるのかどうか、がまず心配でしたが、無事到着でき
て、本当によかったのです。
更に、千人隊長が心を籠めてしたためた手紙、直接託された歩兵がいなくて、
無事に総督の手に渡るのかどうか心配でしたが、手渡され、しかも、総督も読
んでくれたようで、本当によかったのです。1段階クリアーです。
しかし、審問に入る前に、総督が、パウロが「どの州の出身であるか」を尋
ね、パウロが「キリキアだ」と答え(?)ました。本日は、そこのところが
テーマ、重要なポイントです。
パウロに総督が「どの州の出身であるか」を聞いたことにはどのような意味
があるのでしょうか。
当時ローマには「フォルム・ドミチリ」という原則がありました。それは、
告発された人間は、出身の州に戻されて審理される、という原則です。しかし、
これは当時は「任意のもの」でした。つまり、裁判官たる総督が望めばそのよ
うにできる、ということです。
そして、パウロの出身がキリキアである、と分かれば、フェリクスは、パウ
ロをキリキアに送りかえすことができるし、そしてその方が、フェリクスに
とっては、喜ばしいことであったはずだ、とそこまでは分かるのです。
ところが、フェリクスは、この審問を、ユダヤ人の宗教が絡む難しい審問を
引き受けました。その理由が何なのか、そこが分からないのです。
(学者たちの)いくつかの説が議論されていますが、どれも決定的ではあり
ません。なので、触れません。そして、残念ながら、まことに残念ながら、ヨ
セフスは、フェリクスとパウロのやり取りについては一切触れていません。要
するに決定打がないのです。
しかし、フェリクスが、千人隊長と同じ善意を持っていたのではない事だけ
は確かです。たぶん、本当にたぶん、フェリクスがこの件引き受けないと、彼
自身の地位に及ぶ何かがあったのでしょう。
あくまでも彼の都合ではありますが、審問がきちんと、つまり、相手方の言
い分も聞いて行われることとなりました。
ほんとうに不思議なことです。誠意をこめてパウロを扱った千人隊長の処置
に、逆に不安材料が残り、全く信用できない人格の持ち主である、総督フェリ
クスの処置が、「結果的に」正当なものであったり、神さまはどこに、どのよ
うな、そして「だれを通して」御心をなしてくださるか、本当に分からないも
のです。
自分の寿命をわずかでも伸ばすこともできない私たちは、謙虚に、神のみ心
を求めていきたいものです。
(この項、完)
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