2018年01月21日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第87回「使徒言行録23章31〜35節」
(14/8/3)(その1)

31節「さて、歩兵たちは、命令どおりにパウロを引き取って、夜のうちにアン
ティパトリスまで連れて行き、翌日、騎兵たちに護送を任せて兵営へ戻った。」

 パウロのエルサレムからカイサリアへの護送計画の結末が今日のテーマです。
今日のテーマについて、理解していただくためには、パウロの護送計画そのも
のが何であるか、を知っていていただく必要があります。先週、お休みされて
しまった方もいらっしゃる、と思いますので、「パウロの護送計画」なるもの
が何であるのか、というところから話を始めてまいりたい、と思います。
 事の発端は、「パウロ暗殺計画」です。
エルサレムでのサンヒドリンによる審問を乗り越えたパウロですが、熱心党の
息のかかった者らしきグループから、暗殺(シカリオス)の対象として付け狙
われることとなります。
 ついでですが、これは、イエスについてはなかったことで、むしろ、イエス
が熱心党の息のかかった者と見られていました。だからイエスは、十字架刑に
処せられた、とも言えます。
 パウロについては、完全にスタンスをローマ側に、ローマの市民として、
ローマ伝道を行う方に自分の身を置いていますから、熱心党から付け狙われる
ことがあってもおかしくはありません。
 さて、「パウロ暗殺計画」そのものについてですが、これは、前々回に申し
上げたように、非常に厳しい暗殺計画でした。暗殺計画への参加者は、事が達
成されるまでは、飲み食いをしない。すなわち、失敗したら、全員が死ぬ、と
いう呪いと引き換えの暗殺計画だったのです。こうして、「暗殺」という悪が、
律法をすり抜けて、正当化されていくのです。
 今の日本で、集団的自衛権などという、日本国憲法からありえないことが、
すなわち悪が、閣議決定などという法的には何の意味をも持たない「手続き」
によって正当化されていくのと大変によく似ています。いや、同じです。
 こうして、当時のイスラエルは、律法の支配する国ではなく、「暗殺国家」
になってしまっていたのです。前々回申し上げましたが、パウロを裁いたサン
ヒドリンの議長のアナニアさえもが、シカリオス(暗殺者)の凶刃に倒れてい
るのです。
 そのシカリオスに狙われてしまったのですから、かなり厳しい絶体絶命の危
機に、パウロを救ったのは、ローマの千人隊長でした。
 この計画があることを知った彼は、直ちに行動に移ります。歩兵200名、騎
兵70名、補助兵200名の大部隊を用意し、その夜のうちに、カイサリアにいる
総督フェリクスの許へ送り届け、ローマ法に基づく、正しい裁判が行われるよ
うに、「パウロがローマ法に照らして無罪である」という、彼自身の感触をも
手紙にしたためて送り出すのです。
 そして、無事にカイサリアについたのかな、どうなのかな、というところが、
今日のところなのですが、特に先週来られなかった方のために、パウロが届け
られた先の総督フェリクスについての、先週お話しした聖書外資料からの情報
をお伝えしておく必要があります。
 この千人隊長から推すと、上司である総督フェリクスも、正義を愛する正し
い人なのかな、と想像しがちですが、決してそうではありません。
 ヨセフスの古代誌XX・Gによれば、フェリクスは「ユダヤ人に対する数々
の悪行のゆえに処刑されていたであろう」その程度の人物です。
 もっともヨセフス自身はユダヤ人ですから、このヨセフスの見方は、ユダヤ
人の、ユダヤ教徒の見方に偏っているかもしれません。しかし、どう考えても
いけないのは、つまり、ユダヤ人でなくとも顰蹙を買うであろう出来事は、大
祭司ヨナテスを疎ましく思い、「無頼の徒」を使って、ヨナテスを暗殺させた
ことです。総督自ら、シカリオス(暗殺者)と同じことをしてしまったのです。
彼は律法には支配されてはいないかもしれませんが、とても、ローマ法を正し
く執行することにより、パウロを守ることができるかどうか、大変危うい人物
です。
 ですから、本当に正しい、正しすぎる、と言っていいくらい正しい千人隊長
が精魂込めて救い出したパウロが本当に救われるのかどうか、心配を抱えつつ、
パウロのシカリオスからの逃避行の結末を見ることといたしましょう。
 31節に「歩兵たちは、命令どおりにパウロを引き取って、夜のうちにアン
ティパトリスまで連れて行き」とありますが、歩兵たちは千人隊長の命令通り
にいたしました。ここまでは。
 私は軍隊に徴用された経験はありませんので、体験としては分かりませんが、
命令に絶対服従の社会であることは確かとしても、上官の命令に疑問を感ずる
こともあるのではないでしょうか。

(この項、続く)



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