2018年01月07日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第86回「使徒言行録23章23〜25節」
(14/7/27)(その1)

23〜25節「千人隊長は百人隊長二人を呼び、『今夜九時カイサリアへ出発でき
るように、歩兵200名、騎兵70名、補助兵200名を準備せよ』と言った。また、
馬を用意し、パウロを乗せて、総督フェリクスのもとへ無事に護送するように
命じ、次のような内容の手紙を書いた。」

 いつものように、前回の復習からまいりましょう。
前回は、パウロ暗殺計画の一部始終でした。そして、今回はその続きでして、
千人隊長がパウロを救い出して、カイサリアの、カイサリアにいるローマ総督
のところまで、送り届ける、いや「届ける」ところまでは行かず、送り届ける
手筈を整えた、そこのところまでです。
 しかし、それにしても「暗殺」は怖いですね。もちろん殺人全体が怖いこと
は言うまでもありませんが、政治的目的を持った殺人も、決して許されること
ではありません。
 日本の政治史でも、2.26事件や、5.15事件は、当事者にとって限りなき痛み
であると同時に、日本の政治を大きく混乱させ、数百万、いや数千万、それ以
上の犠牲者を生む戦争への道を開いてしまいました。
 戦後の政治におきましても、浅沼稲次郎(当時の)社会党委員長の暗殺事件
は、政治があくまでも、話し合いによって、民主的手法によってなされねばな
らないことを、私たちに知らしめたはずです。
 しかし、民主国家であるはずのアメリカにおいても、古くはリンカーン大統
領の暗殺、そしてケネディ大統領の暗殺を経験したにも関わらず、テロとその
報復の繰り返しが続いているのが、現状です。
 何とかせねばなりませんが、聖書の民において、暗殺があり、しかも、それ
が「正当化」されるというのは、いったいどういうことなのでしょうか。
 なぜなら、律法の基本中の基本、十戒の「第五戒」に「汝、殺すなかれ」と
定められているからです。この戒めは、私たちの教理の学びですでに学んだよ
うに、「未来永劫、決して破ってはならない」戒め、「ロー」からはじまる戒
めであるはずだからです。
 で、その辺のからくりが、なのに暗殺が正当化されるからくりがどうなって
いるのか、という点については、前回申し上げました。事が達成されるまでは
、「飲み食いしない」、すなわち、ことが達成されなければ、「餓死する」と
いう「呪い」と引き換えに、暗殺が正当化されていったのです。ですから、結
果を先取りすることとなりますが、パウロの暗殺計画は結局失敗に終わります
ので、計画を立てた40人以上の人は、リベンジを期す、ではなく、まともなユ
ダヤ教徒であれば、全員餓死したはずです。私たちはその結果が大変気がかり
ですが、ルカは、使徒言行録の著者は一切触れてくれていないので分かりませ
んが、繰り返しますが、まともなユダヤ教徒であれは、全員自ら死を選んだは
ずです。
 パウロの暗殺計画とは、「ちょっと気に食わないから殺してやろうぜ」と
いった「いい加減」なものでは無く、そこまで深刻なものでした。
 そんなこと、そこまでしての暗殺計画を企てる人は、めったやたらにいるわ
けではありません。当時ですと、熱心党というユダヤ教過激派グループがまず
考えられます。それゆえ、もちろんあくまでも推測ですが、「このパウロ暗殺
計画には、熱心党が絡んでいる」と申し上げたのです。
 さて、これだけ、厳しい、深刻な、そして重大な暗殺計画が企てられている
中で、渦中の人、パウロを救い出すことは、容易なことでは、並大抵のことで
はありません。そのことを、勇気をもって成し遂げたのが、例の千人隊長でし
た。千人隊長の勇気には、絶大な称賛がなされてしかるべきです。
 千人隊長は、パウロにエルサレムを脱出させ、カイサリアの総督のところま
で安全に届けるために、「歩兵二百名、騎兵七十名、補助兵二百名」を用意さ
せました。総勢470名です。別のテキストでは500名とされています。当時エル
サレムに派遣されていたローマ兵の、正確な総数が分かりませんので、それが
…1/2なのか、全数なのか全くわかりませんが、それがせいぜい270名だ、とい
う人もおり、「多すぎる」と考える学者もいます。
 しかし、私は、これは正確な、少なくとも実数に近い数字であったと考えま
す。熱心党が暗殺計画に絡んでいるとなると、つまり、完全に「テロ」ですか
ら、パウロを守るためには、最低限必要な数字であったのです。そして、その
兵をその夜中(よるぢゅう)に護送できるよう、直ちに動かした、そこに素晴
らしい行動力が発揮されたのでありました。

(この項、続く)



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