2017年05月28日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第70回「使徒言行録20章25〜35節」
(14/3/9)(その2)
(承前)

 今お読みした、26節〜31節のテーマは、教会のリーダーたちに与えられる使
命ないしは役割について、です。このテーマを展開するにあたって、この説教
では、26、27節が「起」、28節が「承」、29、30節が「転」、31節が「結」と、
見事な4段論法が展開されています。
順に見てまいりましょう。
 まず、26、27節、「起」です。
この2節を読んで、パウロが自己弁護をしているかのような、それゆえに攻撃
的になっている、という印象を持たれた方もいらっしゃるかも知れません。し
かし、そうではありません。ここは、パウロが「使徒」としての使命、神の御
計画をすべて伝える、を果たしてきた、ゆえに、自分は使徒としての「権威」
を持っている、ということを言っている部分なのです。使徒としての「権威」
があるがゆえに、救われる、救われない、は受け止める側の問題だ、という訳
です。
 誤解の原因は、翻訳にあります。27節では「ヒュポステレスサイ」という語
が使われています。この語は、「包み隠さない」という意味の語です。神の御
計画を「包み隠さない」で伝えるから、使徒の権威が保証されるのです。それ
を翻訳は、「ひるむことなく」という見当はずれの訳語を当ててしまいました。
一生懸命、あるいは勇気をもって伝えたことが、使徒の権威を保証するかのよ
うです。これは、パウロの言いたいことと違います。
 パウロは自分に使徒としての「権威」があることを確認した上で、その権威
をもって、すなわち、パウロの指示がそのまま神の指示である、という前提で、
28節の「承」、このテーマの本題、そして、説教全体の中心、「監督」の任命
に入ります。パウロのいない教会で、そしてパウロだけではなく、すべての使
徒が死に絶えてしまうであろう時代にあって、パウロは、教会の指導を「監督」
に託したのでした。
 とは言え、「監督」とは何でしょうか。そして、その職務は、またその職務
にふさわしい人とは、どのような人なのでしょうか。
 「監督」の原語は、「エピスコポイ」、英語では、「BISHOP」と言い
ます。現代の教派では、聖公会、そしてメソジスト教会が「監督制度」を採用
しています。聖公会のことを英語で「エピスコパルチャーチ」ということがあ
りますが、それは、聖公会が監督制度を採用しているからです。
 ここで、パウロの訣別説教に集められた人々は、エフェソ教会の、原語で言
うと「プレスビュテロイ」でした。「年長者」の意です。それゆえ、「長老」
と訳されています。実際教会の中でも、年長者は、年齢的に年長者でなくとも
信徒歴の長い人は、リーダーとしての役割、若い人の指導を期待されます。そ
れゆえ、後に「長老」は、教会の制度として受け容れられていきます。この長
老制度を整えたのが、「長老教会」です。
 しかし、若い人への指導として期待されるのは、体験や知識を生かしての指
導ばかりではありません。神がなしたもう救いの業にかかわる指導が必要です。
そこで、教会では、旧約聖書以来の羊飼いの働き(特に詩編23編)、ギリシア語
では「ポイマイノー」と言いますが、を基に、「エピスコポイ(監督)」という
職務が形作られていったのです。そして、今、エフェソの「長老(プレスビュテ
ロイ)」たちが、単に「長老」であるばかりでなく、「監督(エピスコポイ)」と
して、神によって、神によって全権委託されたパウロによって任命されました。
これから、教会は「監督」の指導の下に歩んでいきます。そのような、教会の
歴史の時代を画する出来事が、ここで起こったのです。
 それでは、「監督」の職務は何でしょうか。それは、「あなたがた自身と群
れ全体とに気を配ること」です。ここにも「羊飼いの働き」が期待されていま
すが、その「あなたがた自身と群れ全体」とは誰でしょうか。それは、「神が
御子の血によってご自分のものとなさった神の教会」、すなわち、御子の血に
よって贖われた教会です。それゆえ、「監督」の職務は、キリストの血による
贖いの業にかかわる職務、司祭の職務へと発展していったのです。後の時代の
ことですが…。
 さて、パウロの訣別説教は、ここで29、30節の「転」へと展開します。
「監督」制度ができたとして、将来起こりうる問題です。一つは、「残忍な狼
どもがあなたがたのところへ入り込んできて群れを荒らすこと」、です。これ
は何でしょうか。一つには権力による迫害も考えられますが、権力が教会の中
へ入りこむ、と言うことは歴史的事実としては、ありません。むしろ、ユダヤ
教や、他の宗教の教師が教会の中に入り込んで、信徒の信仰を破壊していくこ
とと考えられます。

(この項、続く)



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