2017年05月07日
〔使徒言行録連続講解説教〕
第69回「使徒言行録20章17〜24節」
(14/3/2)(その2)
(承前)
それが、「王の凱旋」という考え方です。ユダヤでは、紀元前167年に、ユ
ダス・マカベアスが、シリアの王アンティオコス・エピファネスの支配からユ
ダヤを解放して、神殿奉献祭、後のハヌカー祭が祝われるようになって以来、
「王の即位」は祭りの際に行われる、と考えられるようになりました。ヘロデ
王も、ヘロデはローマの傀儡の王にすぎませんが、紀元前12年ごろのことです
が、ローマで王の地位を確立した後、ユダヤに凱旋し、これは祭りの時である
かどうか、は確認できませんが、神殿に出かけて報告を行いました(ヨセフス
「古代史」16)。
パウロの、エルサレム行も、この「王の凱旋」ないし「王の即位」の慣習に
倣ったものである可能性がある、ということです。エルサレム行のコースは、
ヘロデに倣いました。そして、祭りの時期を選んだのです。
王家の出でもないパウロが、何を尊大な、と、この説に対して、また、パウ
ロ自身に対して、思われるかもしれません。しかし、パウロは尊大ではありま
せん。イエスに倣っただけなのです。
イエスは、過越祭の時にエルサレムに入場され、その時、人々は、ユダス・
マカベアスが、シリアの王アンティオコス・エピファネスの支配からユダヤを
解放し、エルサレムに入場された時の歓呼、「ホサナ」をもってイエスを迎え
ました。しかし、イエスは「苦難の王」として十字架の死を遂げられてしまい
ました。が、神はイエスをよみがえらせ、天にあげ、「栄光の王」とされたの
です。
パウロは、このイエスに倣い、その栄光にあやかりたいのです。ですから、
「苦難」を受ける、すなわち死に至ることを覚悟でエルサレムに向かい、しか
も、イエスがそうであったように、祭りに合わせよう、としたのでした。
もしも、パウロがイエスに倣って、十字架の死を覚悟してエルサレム上京を
されたイエスに倣って、エルサレム行をしようとしていたとしたら、その前に
何が必要でしょうか。そう、訣別説教です。イエスの場合、ヨハネによる福音
書では14章から17章に位置付けられていますが、「残された弟子たちへの励ま
しと勧告」が必要です。
そのパウロの、パウロによる訣別説教を、使徒言行録は、エルサレム行を目
前に控えたミレトスに設定しました。その訣別説教が、本日から3回にわたっ
て学んでいくパウロの説教なのです。
訣別説教の相手、聞き手は誰でしょうか。イエスにおいては、これから神の
国の教会のリーダーとならねばならない12弟子でした。
パウロにおいても、パウロがイエスから使命を受け、実際に形成した教会の
リーダーでなければなりません。パウロが形成した教会の中で、最もよく教会
形成がなされた教会、エフェソ教会のリーダー、そのころはまだその職制はあ
りませんでしたが、後に「長老」と呼ばれる人々が呼ばれることとなりました。
場面としては、読者の皆様方お気づきのとおり、かなり無理があります。エ
フェソを通り過ぎてしまったのに、エフェソ教会のリーダーを呼ばねばなりま
せんから。エフェソとミレトスは、直線距離にして60キロメートルとは言え、
迎えに行って、連れてきて、訣別説教があって、そして送り返す、となると、
最低4日かかります。「早くエルサレムに着く」という予定、意図と矛盾する
ではないか、と思われてしまいますが、どうしても、この日、この時に、この
人たちに対して「訣別説教」がなされねばならなかったのであります。
この訣別説教をわたしたちは、3回にわたって学んでいきますが、今日はそ
の第一部と第2部を瞥見することといたしましょう。
18〜21節「長老たちが集まって来たとき、パウロはこう話した。『アジア州に
来た最初の日以来、わたしがあなたがたと共にどのように過ごしてきたかは、
よくご存知です。すなわち、自分を全く取るに足りない者と思い、涙を流しな
がら、また、ユダヤ人の数々の陰謀によってこの身にふりかかってきた試練に
遭いながらも、主にお仕えしてきました。役に立つことは一つ残らず、公衆の
面前でも方々の家でも、あなたがたに伝え、また、教えてきました。神に対す
る悔い改めと、わたしたちの主イエスに対する信仰とを、ユダヤ人にもギリシ
ア人にも力強く証してきたのです。…」
この第一部は、パウロの弁明です。
イエスの訣別説教の場合には、ヨハネによる福音書では14章から17章を見て
いただければわかるとおり、終始、弟子たちへの励まし、パラクレートスを送
る、という、と警告でした。そもそも訣別説教の意図はそこにありますから、
パウロも早くそこに入りたかったに違いありません。
(この項、続く)
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