2017年04月23日
〔使徒言行録連続講解説教〕
第69回「使徒言行録20章13〜16節」
(14/2/23)(その2)
(承前)
この説には、もう一つ根拠があります。14節です。14節はアソスでの出来事
です。著者は「アソスでパウロと落ち合ったので、わたしたちは彼を船に乗せ
てミティレネに着いた。」と記しています。しかし、もし、13節にあるように、
「パウロをそこ(アソス)から乗船させる予定であった」とすると、「パウロ
と落ち合ったので」は余計です。原語(シュンバロー)は「出くわす」という
意味で、予定の行動なら、「出くわす」のは当たり前で、わざわざ書く必要は
ないのです。これらから推測するに、どうやら、「喧嘩別れ」をして、「この
ままでは、エルサレムまで別行動か?」あるいは「献金持参」は挫折か、と言
うところまで追い込まれ、しかし、アソスで同行者とパウロとがたまたま出
会って、和解をして、そしてパウロも乗船して、やっとまともな航海ができる
ようになった、まともな航海が始まったというストーリーが見えてくるのです
が、どうでしょうか。
あくまでもこの推測が当たっていれば、の話ですが、パウロの一行は、(パ
ウロは以前にもバルナバと喧嘩をしましたが(15:39))、決して一枚岩で
あったわけではなく、どちらの道を通っていくか、と言った具体的な問題にお
いて、しばしば衝突があった、と考えられるのです。場合によっては、旅行そ
のものが崩壊しかねない事態に直面したことでしょう。しかし、それでも皆
「神のご意思」に忠実に従う意思ははっきりしていましたから、神は、そのよ
うな内部危機をも克服して、主の目的を達成するための道を開いてくださった
のだ、と考えられます。
私たちの教会にも、同じ主の導きがあることを忘れてはなりません。何が
あっても神のご意思に忠実に従う意思を持つことが大切です。
さて、航海は第二段階に入ります。エルサレムへ向かうかなり長い航海に備
えて、地中海に近いどこか大きな港へ寄らねばなりません。前回の第二伝道旅
行の際には、パウロはエフェソへ寄って、そこからエルサレムへ直行しました。
今回はどうするのでしょうか。
巻末の小さな地図では大変に見にくいのですが、アソスを船出したパウロは、
キオス島(今日のヒオス島)の沖を過ぎ、と言っても、ヒオス島と小アジア本
土との海峡を通過したのだと考えられますが、サモス島に寄港し、異本によれ
ば、寄港したのはサモス島の対岸のトロゴリオンと言う町になっていますが、
そしてミレトスに行きました。ミレトスをエルサレムへの出発港に選んだので
す。
小さい小さい地図で大変に分かりにくいのですが、サモス島は、特にその対
岸のトロゴリオンと言う町となるとなおさら、エフェソの目の前です。なぜ、
パウロはエフェソに、そしてエフェソの教会に寄らなかったのでしょうか。
その理由について16節は、「アジア州で時を費やさないように、エフェソに
は寄らないで航海することに決めていたからである。できれば五旬祭にはエル
サレムに着いていたかった」と説明しています。
エフェソ教会は、パウロが2年3か月も牧会した教会であり、そこで多くの
働きがなされました。もし、寄れば、多くの時間を費やさずにはいられないこ
とでしょう。
一方、エルサレムでは五旬祭、キリスト教で言えばペンテコステの祭りが近
づいています。その時にはパウロはエルサレムにいたかったので、エフェソに
寄らずに、旅を急ぐことに決めていた。この「決めていた(原語:クリノ―)」
は、「判断する」と言う意味で、13節の「ディアテタグメノス(支持する→命
令する)」ほど強い意味をもった語ではありません。理性的な判断で「そうす
ることに決めた」と言うことです。
16節を読んで、筋は通っていますので、読者は、一応は納得すると思います
が、しかし、この判断をしたパウロの気持ちが分かりません。特に、すでにユ
ダヤ教からキリスト教に改宗したパウロが「五旬祭に間に合わせる」とした判
断の根拠が分かりません。エフェソの教会の皆さんに、トロアスの教会のよう
な別れを告げること以上に優先されるべき何かがある、とでもいうのでしょう
か。
この点について、根拠は聖書外の資料ですが、一つの推測をご紹介したいと
思います。
実は、ミレトスからエルサレムへとこの後パウロがたどった航海の道筋は、
ヘロデ大王が、ローマのカエサルの下で王としての確かな地位を確認しエルサ
レムへ凱旋した時の道筋と一緒なのです(ヨセフス「古代史」第16巻)。もし、
パウロが、あるいは、使徒言行録の著者がこのことを意識していたとしたら、
パウロは「王の凱旋」の意識をもってエルサレムに帰ろう、としていたのでは
ないでしょうか。「王の凱旋」がなされるのは、「祭り」の時です。
(この項、続く)
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