2017年04月16日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第69回「使徒言行録20章13〜16節」
(14/2/23)(その1)

13〜16節「さて、わたしたちは先に船に乗り込み、アソスに向けて船出した。
パウロをそこから乗船させる予定であった。これは、パウロ自身が徒歩で旅行
するつもりで、そう指示しておいたからである。アソスでパウロと落ち合った
ので、わたしたちは彼を船に乗せてミティレネについた。翌日、そこを船出し、
キオス島の沖を過ぎ、その次の日サモス島に寄港し、更にその翌日にはミレト
スに到着した。パウロは、アジア州で時を費やさないように、エフェソには寄
らないで航海することに決めていたからである。できれば五旬祭にはエルサレ
ムに着いていたかったので、旅を急いだのである。」

 さて、いつものように、地図的にも、使徒言行録的にも、今、どこにいるの
か、というところから話を進めなければなりません。
 一言で言えば、パウロの第三伝道旅行の帰途、トロアスからミレトスまでの
間の出来事が、今日のテーマです。
 そして、ここで、というか、この間パウロが何を思い、何を目指していたか、というところから話をすすめることといたしましょう。
度々繰り返していますように、パウロの第三伝道旅行の目的は、すでに作られ
た教会を整えることでした。その最大の課題、逆に言えば一番問題あったのは
コリント教会でありまして、そのコリント教会問題をパウロは無事解決し、何
と、そのコリントの地でローマの信徒への手紙を執筆することによって彼の異
邦人伝道を総括したのであります。
 しかし、第三伝道旅行には、もう一つの目的がありました。異邦人伝道に一
区切りがついたら、その上での話ですが、エルサレム教会への献金行脚をする
ことです。これについても、特にマケドニア州の教会で大きな成果をあげ、献
金行脚に協力してくれた弟子、同行者と共に献金をエルサレム教会へ届けると
ころまで、段取りは進みました。
 前回の、トロアスの教会で別れを告げる場面を経て、今や、パウロはエルサ
レムへ向かうこと、エルサレムへ献金を届けることに集中して行動を始めた、
それが「現在」のパウロの状況、環境なのであります。
 さて、ここから先、今日の場面は、地図を見ながら聞いていただくことが必
要です。
 献金を早く、安全に、エルサレム教会へ届けるために、一行は当然海路をと
ることとなります。が、技術力の低い当時の航海においては、寄港地を転々と
しながら、そのたびごとに船を見つけ、航海を進めていかざるを得ません。
 トロアスを出港した一行は、まずトロアス半島の南側にあるアソスという町
に行かざるを得ませんでした。なぜなら、トロアスという町は、トロアス半島
の北西側にあったからです。
 ところが、この短い航海を避け、パウロだけは陸路を取った、というところ
から、今日の物語が始まります。と同時に今日のテキストの最大の問題が生じ
ます。トロアスからアソスまで直線距離にしてせいぜい50キロメートル、半島
の先端を船で回るより陸路の方が距離としては近いことは近いのですが、ここ
でパウロだけが陸路をとったことです。献金を抱えているはずなのになぜ?と
いうことです。
 いろいろな推測がなされています。パウロが航海に弱かった、特に「海風邪」
にかかりやすかった、という人もいます。でも、もしそうなら、パウロは伝道
旅行、いや、異邦人伝道そのものにも耐えられなかったことでしょう。
 あるいは、その間、パウロは伝道して回った、と言う人もいます。しかし、
トロアスの教会では別れを告げたし、アソスに教会のあった痕跡はありません。
それに何よりも、今のパウロの仕事は、エルサレム教会に献金を届けることな
のではないでしょうか。
 ではなぜ?推測に頼るしかありませんが、根拠のない推測ではなく、テキス
トに根拠のある推測でなければいけません。で、根拠はあるかと言うと、ある
のです。
 第一の根拠は13節です。パウロの徒歩旅行はパウロの「つもり」で、パウロ
が「指示しておいた」こととされています。ところが、日本語で「指示する」
と言うと「道案内」の感じですが、原語(ディアテタグメノス)は非常に強い
意味で、日本語で言うと「命令する」の意味をもった語なのです。だとすると
なぞはますます深まります。同行者が大事な献金を抱えて、というより
「守って」船で行く、と言っているのに、「わたしは徒歩で行く」と強く主張
する、とは。私には、ここでパウロと同行者とが、旅の始まりであるにも関わ
らず「喧嘩別れ」をしたというケース以外には考えられないのではないか、と
思うのですが、いかがでしょうか。

(この項、続く)



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