2017年04月09日
〔使徒言行録連続講解説教〕
第68回「使徒言行録20章7〜12節」
(14/2/16)(その3)
(承前)
そして、第二に、その「日曜礼拝」にパン裂き、すなわち聖餐式が必須のも
のとして行われていた、との記録もここだけなのです。
主イエスが最後の晩餐にてご指示くださった「聖餐式」について、その具体
的指示については、Tコリント11章に記されています。聖餐式において読み上
げるとおりです。
しかし、その聖餐式が実際に「日曜礼拝」に行われた、との記録がここだけ
だ、ということです。教会がシナゴグから独立して初めて、聖餐式も礼拝の業
として行われるようになったに違いありません。
カール・バルトやカルヴァンによって、この記事が教会史において画期的な
意味を持つ記事である、という評価がなされるゆえんです。このトロアス礼拝
は、パウロ自身にとっても、今まで自分が伝えてきたキリストの福音が結実し
た礼拝として、感慨ひとしおであったのではないでしょうか。
しかし、このやっとたどり着いた礼拝が、パウロとそして教会のメンバーに
とっては「別れの礼拝」となってしまいました。パウロの予感では、ただの
「別れ」ではなく、未来永劫の「別れ」です。そして、パウロの予感通り、そ
のとおりになってしまいました。それで、礼拝に続くパウロの話は延々と続く
こととなりました。
ところが、その「パウロの話」の最中に、大事件が起きてしまいました。
8〜12節「わたしたちが集まっていた会場の部屋には、たくさんのともし火が
ついていた。エウティコという青年が、窓に腰を掛けていたが、パウロの話が
長々と続いたので、ひどく眠気を催し、眠りこけて三階から下に落ちてしまっ
た。起こしてみると、もう死んでいた。パウロは降りて行き、彼の上にかがみ
込み、抱きかかえて言った。『騒ぐな。まだ生きている。』そして、また上に
行って、パンを裂いて食べ、夜明けまで長い間話し続けてから出発した。人々
は生き返った青年を連れて帰り、大いに慰められた。」
この礼拝が何時に始まったか、分かりません。私たちの感覚からすると朝か
らですが、ユダヤの暦に従えば、今で言う土曜日の夜に始まったと考えられま
す。おそらくそっちでしょう。ランプがあったことがそれを証明しています。
しかし、それにしても、パウロの話が延々と続くので、窓に座っていたエウ
ティコという青年が、ひどく睡魔が襲ってきて、(原文ではこの部分が形を変
えて繰り返されていて、コックリコックリしているうちに突然いびきをかいて
眠り始める様がよくあらわされています。)そして、不運にも窓から落ちて、
死んでしまったのです。ちなみに、当時の一般住宅は平屋でしたが、しかし、
三階がある、ということは貧困者のためのアパートメントを意味し、教会はそ
のようなところでしか、礼拝を守れませんでした。しかし、その三階が同時に
「アッパー・ルーム」となったのです。
さて、話を本題に戻して、このような事件(礼拝中に事故で死者が出る)が
起きたら、何が引き続いて起こるでしょうか。
現代の教会でこのようなことが起こったとしたら、礼拝はそこで中止。救急
車、警察が呼ばれ、事件の始末で皆てんてこまい。落ち着いた頃、悲しみが
襲ってくる、と同時に「犯人捜し」が始まり、「パウロが延々と話すからいけ
ないんだ。牧会者としての資質に欠ける。」などという話になって、パウロを
「祈りのうちに送り出す」はずが、パウロ追放にもつながりかねない事態とな
ることでしょう。
当時の教会だったらどうか。それは、礼拝中に「居眠り」した人が悪いんで
す。これはクムランの教会の例ですが、礼拝中に居眠りしただけで、30日間の
教会への「出入り禁止」が命じられました。たとえ、事故が起きたとしても、
それは本人の責任、あるいは「神の罰」であって、礼拝は、何事もなかったか
のように続けられたことでしょう。
さて、みなさんは「現代の教会」派ですか、それとも、「古代の教会」派で
すか。
パウロは、そして神は、そのどちらでもありませんでした。この「不幸」を、
そして「不運」を、神のみ業の働く機会としてお用いになられ、「命」を与え、
人々に慰めを与えられたのです。もちろん、パウロの話も途絶えさせられるこ
となく、明け方まで延々延々と続けられたのです。
今日は、この最後の部分から、メッセージをいただきましょう。福音伝道の
過程においても、いやそういう時に限って、「不幸」「不運」が起こるもので
す。事は決して「予定調和」では進みません。そんな時、そんな時こそ、つま
り、神に頼ることしか手段のないときにこそ、神の御手が働く、私たちはその
ことを覚えて、福音伝道に励んでまいりたい、と思います。
(この項、完)
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