2017年03月12日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第65回「使徒言行録19章28〜40節」
(14/2/2)(その3)
(承前)

 ついでですが、21:27によれば、エルサレムでパウロ捕縛に力を貸したのは、
アジア州、すなわちエフェソから来たユダヤ人でした。使徒言行録の著者は、
ここで大筋に関係ない話ではありますが、エフェソのユダヤ人の悪行に触れず
にはいられなかったのかもしれません。
 さて、この事態を収拾できるのはだれか、ということになります。それは町
の書記官でした。
 書記官と聞いて、皆さんはどのようなイメージを持ちますか。国会や裁判所
にも書記官がいます。大変な仕事ではありますが、正確な記録を取ることが職
務であり、裁判官や内閣総理大臣とは違う、つまりリーダーではありません。
 しかし、このころの書記官、原語は「グラマティウス」は違います。マルコ
による福音書の講解説教の時に触れましたが、「律法学者」と訳されている語
の原語も「グラマティウス」です。すなわち、正確にとった記録を武器に、そ
こまでは今の書記官と同じです。政治について、裁判について、宗教について
判断をするリーダーなのです。ちなみに、現在も共産圏では、その伝統に立っ
てでしょうか、「書記」ないしは「書記長」がリーダーです。北朝鮮のキム
ジョンウン氏は、第一書記です。
 この人物が、あくまでも町の宗教的伝統の上に立ちながら、限界はあるにせ
よ、ローマ的な「信教の自由」に立って、キリスト教を擁護したのです。以前
ふれた「不一致の原則」です。具体的な冒?の事実がない限り、信教の自由は
保障されるのです。健全なる権力の下では、偶像崇拝からの自由を説く異邦人
伝道は市民権をもつ、ということが証明されたのです。迫害をおそれることな
く伝道しましょう、ということです。
 最後に、最も重要なことです。権力が健全である時は、第一段階の迫害は乗
り越えられます。しかし、ディオクレティアヌス帝以降のローマのように、権
力が神ならぬ者を神として来たとき、つまり、第二段階の迫害が始まった時、
この世の教会は迫害には耐えられません。日本では、キリシタンは殲滅させら
れてしまいました。
 今は伝道できる時です。しかし、教会はこれ以後来る権力による弾圧の時、
その時にも備えておらねばなりません。しかし、主はこの世の権力にはるかに
勝る方でいらっしゃいます。教会がどのような時も、主と共に歩み続けること
が求められます。

(この項、完)


第66回「使徒言行録20章1〜6節」
(14/2/9)(その1)

20:1〜3前半「この騒動が収まった後、パウロは弟子たちを呼び集めて励ま
し、別れを告げてからマケドニア州へと出発した。そして、この地方を巡り
歩き、言葉を尽くして人々を励ましながら、ギリシアに来て、そこで3カ月を
過ごした。」
 第3伝道旅行の途次、2年3か月に及ぶエフェソ滞在を終えて、パウロは、
いよいよギリシア本土へ向かう、というのが、本日の物語の出だしです。
 先週まで数回にわたって触れましたように、エフェソ滞在中のパウロにとっ
ての最大の成果は、コリント教会との関係の修復でした。が、これもたびたび
申し上げておりますように、にも拘わらず、使徒言行録は、出来事そのもので
はなくとも、パウロの苦しみ、涙、そして修復のためのあらゆる努力について
も、一切触れておりません。大変不思議なことです。使徒言行録の著者は、パ
ウロの苦しみに対して鈍感であったのではないか、あるいは、使徒言行録の著
者はパウロの苦しみを全く知らなかったのではないか、といった推測もなされ
ています。
 しかし、私は、これも推測にすぎませんが、使徒言行録の著者はパウロの苦
しみを十分に知っていて、しかし、コリント教会問題が、異邦人伝道の運命を、
いやキリスト教の運命を左右する重大な出来事であることを察知して、そのな
りゆきを固唾を飲んで見守っていたのではないか、と考えているのです。
 本当に無事に解決してよかったのです。解決しなかったならば、異邦人伝道
も、いやそれどころか、キリスト教そのものもここで「ジ・エンド」になって
いたに違いありません。
 この素晴らしい出来事を、使徒言行録の著者も書きたい、と思ったに違いあ
りません。しかし、もし書くとすれば、それは「使徒言行録」としてではなく、
「第5の福音書」として書かれねばなりません。それは、キリストの贖いの業
がもう一度確認される出来事だったからです。
 この一連の出来事の記録は、コリントの信徒への手紙に委ねて、キリストの
贖いの業を出発点として、全世界への宣教活動を伝える「使徒言行録」は、コ
リント事件の解決によって、リセットされて、再出発することとなったのでし
た。

(この項、続く)



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