2016年11月06日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第57回「使徒言行録18章12〜17節」
(13/12/1)(その3)
(承前)

 昔昔の昔話のように感じられた方も多いかもしれません。しかし、ローマを
日本社会に、ユダヤ教を西洋文明一般に置き換えてみると、今日の物語は、そ
のまま、今の日本のキリスト教の現状を表す物語です。文明開化以降、西洋文
明は日本でそれなりの「信教の自由」を獲得しました。キリスト教も西洋文明
の一変種としては「信教の自由」を認められました。でもそこまでです。信仰
の問題になると、「信教の自由」は否定され、洗礼を志願する人は必ず激しい
抵抗、反対を受けるのです。
 そして、「西洋文明」自体も、「日本回帰」の風潮の中で、「信教の自由」
が危うくなってきています。日本のクリスチャンは、ローマ帝国のクリスチャ
ンと同じく、大変に厳しい状況の中に置かれているのです。
 どうしたらいいでしょうか。一つには、私たちが十字架の救いにしっかり立
つことを確認することです。その上で、目標をしっかりと見定め、真に「信教
の自由」が認められる社会を目指すことです。ローマにおいても、クリスチャ
ンは、激しい迫害の中にあってこそ、生き生きとした信仰を保ち続け、最終的
には、ローマ帝国に勝利したのですから。

(この項、完)


第58回「使徒言行録18章18〜23節」
(13/12/8)(その1)

18〜23節「パウロは、なおしばらくの間ここに滞在したが、やがて兄弟たちに
別れを告げて、船でシリア州へ旅立った。プリスキラとアキラも同行した。パ
ウロは誓願を立てていたので、ケンクレアイで髪を切った。一行がエフェソに
到着したとき、パウロは二人をそこに残して自分だけ会堂に入り、ユダヤ人と
論じ合った。人々はもうしばらく滞在するように願ったが、パウロはそれを断
り、『神の御心ならば、また戻って来ます』と言って別れを告げ、エフェソか
ら船出した。カイサリアに到着して、教会に挨拶をするためにエルサレムへ上
り、アンティオキアに下った。パウロはしばらくここで過ごした後、また旅に
出て、ガラテヤやフリギア地方を次々に巡回し、すべての弟子たちを力づけた。」
 第二伝道旅行の途中、パウロは1年6か月にわたってコリントに滞在しまし
た。旅行とは言えないくらいの長い滞在でしたが、この間、パウロは多くのこ
とを成し遂げました。何よりも大きな出来事は、パウロが仕事を持ったことで
した。このことをもって、パウロは、キリスト教会は、シナゴグからの経済的
自立を成し遂げ、しかも「教会」の建物も与えられて、ユダヤ教から独立した
「キリスト教会」としての歩みを始めることができたのでした。それが、コリ
ントでの出来事でした。
 しかし、それは当たり前のことですが、キリスト教会が、ユダヤ教シナゴグ
とは別の存在として、社会的に認知されるまではまだまだでした。シナゴグか
ら、「パウロらの動きは、もはやユダヤ教とはいえないので、ユダヤ教に与え
られている信教の自由をはく奪してほしい」との訴えをパウロらは受けました。
賢明なる裁判官の判断によって、「信教の自由」のはく奪は免れましたが、こ
のことは、逆に言えば、キリスト教が未だに「ユダヤ教の一派」と見られてい
たことを意味します。キリスト教のユダヤ教からの完全独立への道、それはま
だまだ長い先のことになりそうです。
 さて、この裁判以外の長い長い期間、パウロは何をしていたのでしょうか。
教会が独立するために「仕事」に励まねばならなかったこと、が一つには考え
られます。パウロは、コリント二12:13で、自分が(コリントの)教会に何らの
負担もかけなかったことを、強く強調しています。
 しかし、それ以上に、パウロが、コリントでの長期滞在の間に心砕いて来た
ことは、コリント教会の「教会形成」でした。長い間滞在したということは、
教会形成がスムースに行った、ということではなく、困難を極めたことを意味
します。本当に大変だったことと考えられます。どんなに大変だったかは、コ
リントの信徒への手紙を少しでも見れば、一目瞭然です。パウロが本当に苦労
したことを三例だけ上げれば、「派閥争い(コリント一1:10以下)」、「不品行
(同じく5:1以下)」、「偶像礼拝へのルーズさ(同じく10章)」です。「えっ、
そんなことが教会にあったの?」と驚くことばかりです。さらには「パウロに
対する誹謗中傷(コリント二10章)」もしばしば行われました。実は、コリント
教会は、私たちにそっくりな、何ともひどい教会だったのです。ですから、パ
ウロはもう最初からそれらのことをやめさせるために本当に苦労していたのだ、
と考えられます。

(この項、続く)



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