2016年08月07日
〔使徒言行録連続講解説教〕
第52回「使徒言行録17章16〜21節」
(13/10/13)(その1)
16〜17節「パウロはアテネで二人を待っている間に、この町の至るところに偶
像があるのを見て憤慨した。それで、会堂ではユダヤ人や神をあがめる人々と
論じ、また、広場では居合わせた人々と毎日論じ合っていた。」
本日は、使徒言行録のクライマックスの一つ、アテネ伝道です。
以前にも申し上げたとおり、この場面は、使徒言行録の四大名場面の一つです。
他の三つはペンテコステの物語(2:1以下)、パウロ(サウロ)の回心(9:1以下)
、使徒会議(15:1以下)、です。
なぜ名場面であるかと言えば、アテネでの伝道が、異邦人伝道、「本物の異邦
人対象の異邦人伝道」、そして「ローマ(帝国)での伝 道」が成功するかど
うか、パウロのメッセージが、つまりそれは「キリスト教のメッセージが」と
いうことですが、ローマ帝国で通用するかどうかの試金石だったからです。
とは言え、パウロがアテネを訪れたのは、紀元後1世紀のことですから、ア
テネには、紀元前5世紀のころ、ソクラテスが活躍したころのような精彩はす
でにありませんでした。当時のアテネはローマ帝国の属州に過ぎなかったので
す。にもかかわらず、ローマの精神文化を支える存在として、「知的な大学都
市」としての役割を果たしていた、と言えます。
パウロ自身も、アテネ伝道をギリシア本土での第二伝道旅行の「クライマッ
クス」として、アテネに威風堂々と乗り込みたかったことと思います。しかし、
現実は、ギリシア本土においても執拗に迫ってくるユダヤ人、ユダヤ教徒の迫
害の手を逃れて、這う這うの体でこの町にやって来たのでした。今日はまずそ
の辺の事情の説明から入っていくことといたしましょう。
「本物の異邦人対象の異邦人伝道」、そして「ローマ(帝国)での伝道」は、
フィリピ伝道をもって始まりました。そして、フィリピでの伝道において、四
つの「ローマ(帝国)での伝道」のパターンが確立されました。すなわち
1.偶像礼拝からの解放
2.イエス・キリストの名による「悪霊祓い」
3.「カミ(大いなるもの)への畏れ」を言わば「窓口」として、主イエスを
信じる信仰へと導かれる。
4.「ローマの法」に則って伝道が進められるべき。
です。
このパターンは、フィリピの次のテサロニケでの伝道でも確かめられ、
「ローマ帝国での伝道の型」として確立されることとなったのです。
しかし、この「ローマ帝国での伝道の型」が本当にローマ帝国全土で通用す
るものなのか、次の課題として、ギリシア文化の中心、アテネで試されること
が求められたのです。
ところが、このパウロの計画に「思わぬ邪魔」が入ることとなりました。
「思わぬ邪魔」と言うよりは、「想定以上の障害」と言った方が正確かもしれ
ませんが、ユダヤ人、ユダヤ教徒の抵抗そして迫害です。ギリシア本土はユダ
ヤから、そしてエルサレムからは遠いです。しかし、マイノリティーであると
は言え、どの町にもちゃんとユダヤ人が住んでいて、ある程度の人口がある場
合には、必ずシナゴグが形成されていたのです。このユダヤ人が、テサロニケ
の場合にそうでしたが、パウロらに組織的な迫害を、しかも、ローマの官憲を
も巻き込むことをたくらんでの迫害を加えて来たのです。
テサロニケの兄弟たちは、「パウロらが難にあっては大変」ということで、
パウロらをベレアに逃しました。しかし、追手はベレアまで追って来て、パウ
ロは、海路アテネまで逃げねばならない、とそういう事態になってしまったの
です。パウロは、「伝道の旗手」としてではなく、「逃亡者」としてアテネに
入ることとなってしまいました。以上が、パウロがアテネに入った時の状況で
す。
もっとも、パウロにも悪いところがありました。第二伝道旅行は、あのマケ
ドニア人の幻に出会ってから、「本物の異邦人対象の異邦人伝道」、そして
「ローマ(帝国)での伝道」を使命として進められてきました。しかし、パウ
ロは新たな町へ入ると、必ずまずシナゴグに行くのです。もちろん、そこには
パウロの「同胞愛」があるのですが、パウロが一旦この「同胞愛」から自らを
解き放たない限り、異邦人伝道は進展しないのです。アテネ伝道では、パウロ
が「同胞愛」から自らを解き放つきっかけが得られるかどうか、そこが課題と
なります。
先週も触れたように、パウロが自分自身を、名実ともに「異邦人の使徒」と
定義し、自分自身の「同胞愛」を、「なんとかして自分の同胞にねたみを起こ
させ、その幾人かでも救いたいのです」という「逆説的同胞愛」にまで深めて
いくには、まだ時間と経験とが必要だったのです。
さて、それでは今日のテキストに入っていきましょう。
(この項、続く)
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