2016年06月05日
〔使徒言行録連続講解説教〕
第48回「使徒言行録16章25〜34節」
(13/9/15)(その2)
(承前)
ところが、ここで一行は、というより異邦人伝道そのものが、特に「ローマ
伝道」が大きな「壁」に直面することとなります。それは何かと言えば、「不
一致の原則」でした。ローマでは一応「信教の自由」は認められるのですが、
それは、「自分の宗教を守ることは許可する」という意味であって、「伝道」、
改宗者を作ることはご法度なのです。なんだか戦前の日本、今もそうかもしれ
ませんが、みたいです。そもそもは、「占いの霊」に取りつかれていた女性の
解放によって、金儲け、生活の手段を失った人の訴えから始まりました。が、
一行の中、ギリシア人であるテモテとルカを除くパウロとシラスとは、「不一
致の原則」に触れたがゆえに、むち打ちと入牢という過度の刑を受けて、厳重
な監視下、獄中にある、というのが現在の状況なのです。
さて、どうなることでしょうか? 先ほどテキストを読んでいただきまして、
今日の物語が、聖霊の導きによる実に驚くべき、この「危機」の解決であった、
と感じられた方も多いことか、と思いますが、実はそうではありません。「危
機」の解決は、35節以下においてなされることとなります。今日は、一見「危
機」の解決のようであってそうではなく、この「危機」の中で、なんと異邦人
の「回心」が起こり、それが「ローマ伝道」の3つ目のパターンになっていく、
という物語なのであります。
獄中でパウロとシラスは祈っていました。「えらい」というより、「危機」
の中でも、クリスチャンにはこの手だてが残されていたのです。さらに、彼ら
は、「賛美の歌」を歌っていました。見落としがちですが、クリスチャンには
この手だても残されていたのです。歌っていたのは、キリスト教の「讃美歌」
ではなく、まだできていません、ユダヤ教の「ハレル」だったと思われます。
が、神を賛美する歌として用いられた、ということです。
そうしますと、そこで奇跡が起こりました。大地震(おおじしん)です。東
地中海世界に地震が多いことは、現在でもそのとおりです。ゆえに、ここで本
当に地震が起こって、牢の戸がみな開き、すべての囚人の鎖が外れてしまった
ということは十分に考えられます。パウロとシラスの祈りと賛美が聞かれたの
でしょう。
しかし、関東大震災、阪神淡路大震災、中越地震、中越沖地震、そして東日
本大震災を経験した私たちは、地震によって救われたというストーリーには、
大いに抵抗があります。牢屋が壊れるほどの地震だったら、周辺の被害も甚大
だったのではないでしょうか。
が、聖書における地震の意味付けは大変に、微妙です。まずそもそも、パレ
スチナ、カナンの地では地震は少なかったのではないでしょうか。旧新約聖書、
外典も合わせて、「地震」の用例は20例、大地震の用例は5例にすぎません。
特に「大地震」に関しては、実際におこった(と考えられる)「大地震」につ
いて記されているのはここだけで、他の4例は全て終末に想定されるものです。
ゆえに、地震被害の大きさ、悲惨さに関する認識は希薄だったと思われます。
「地震」の旧約聖書における6例の中、そもそもわずか6例ですが、4例は、
神顕現のときの「地の揺らぎ」を指しています。旧約聖書において、地震とは、
そもそもは、いわゆる「地震」ではなく、神がお現われになられるときに起こ
る「地の揺らぎ」でした。
しかし、アモス書1:1に預言者アモスが「『あの地震』の2年前」に預言をし
た、という注目すべき記述が残されています。『あの地震』とはいつどこで起
こったどのような地震であったのか、全く分かりません。しかし、アモスが預
言活動を開始するきっかけとなるような、大地震だったのではないでしょうか。
大きな被害も出たのではないでしょうか。さらに、ゼカリア書14:5において
、旧約聖書において唯一、地震の実際の状況について言及されています。すな
わち「ユダの王ウジヤの時代に地震を避けて逃れたように逃げるがよい
(14:5)」との記述を通して、ユダの王ウジヤの時代に避難を必要とする地震
が起こったことが分かるのです。被害も大きかったのではないでしょうか。
これらの実体験を通して、「地震とは本当は恐ろしいものだ」という地震に
対する恐怖が生まれ、受け継がれていくこととなります。中間時代を経て(シ
ラ書22:16)、新約聖書においては、地震は全て「終末の恐怖」の一つとして
捉えられることとなりました。先ほども述べたように、大地震については、こ
こ以外の新約聖書の用例は全て、そして地震についても、10例中10例すべてが、
終末の「カタストロフ」の一つとして地震に触れています。
(この項、続く)
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