2016年05月01日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第46回「使徒言行録16章11〜15節」
(13/9/1)(その2)
(承前)

 しかし、ルカはここで「自分も証人の一人であるということを明らかにした」
ばかりではなく、書式まで変えているのです。それはなぜでしょうか。そこに
はヨーロッパ伝道のもつもっと大きな意味もあるのではないでしょうか?
 これからは、以上のような問いを持ちながら、ルカの思いを推測しつつ、パ
ウロのヨーロッパ伝道の跡をたどってみたい、と思います。
 さて、パウロが、記念すべきヨーロッパ伝道の第一歩を踏んだ地はフィリピ
という町でした。
 パウロら一行は、トロアスからヨーロッパすなわちギリシア本土へ渡るため
に、エーゲ海を横断せねばなりませんでした。まず、船でトロアスを出航し、
サモトラケ島に直航します。この島には適当な港がなく、一行は、島の近くに
停泊して船の中で一夜を過ごしたことと思われます。そして、次の日、ネアポ
リスの港に到着しました。なお、一行とは、パウロとシルワノとも呼ばれるシ
ラス、テモテ、そして使徒言行録の著者ルカ、他にもいたかもしれませんが、
そのメンバーです。
 順当なコースです。しかし一行は、最初の訪問地であるサモトラケ島、そし
て第二の訪問地であるネアポリスでは伝道をしませんでした。せっかく行った
のになぜなのでしょうか。この点が、私たちが、ヨーロッパ伝道についてまず
第一に直面する疑問です。この疑問は、私たちがサモトラケ島やネアポリスに
ついて知れば知るほど深まってまいります。サモトラケ島には、高度の文明が
ありました。8月30日のスペインTVEは「ルーブル博物館に所蔵されているサ
モトラケ島の『勝利の女神像』が修理に入る」というニュースを伝えていまし
た。そして、そこには「偉大な神々」と呼ばれる神の聖所がありました。その
聖所では2段階にわたる秘法が伝授されるとのことで大いに流行っていました。
このような偶像崇拝が盛んなところにおいてこそ、真の神への信仰が宣べ伝え
られるべきなのではないでしょうか。また、ネアポリスは、紀元前42年に戦わ
れたフィリピでの戦いにおいて、ブルータスとカシウスが海軍基地として用い
た町で、軍事上の要衝として栄えていました。このような心が荒れた町におい
てこそ、福音が宣べ伝えられるべきなのではないでしょうか。
 これは推測ではありますが、サモトラケ島やネアポリスには、伝道の拠点と
なるべきシナゴグがなかったからなのではないか、といった理由も考えられな
いことはありません。が、20:6で、パウロは、逆コースではありますが、同じ
コースの旅に5日間もかけているところを見ると、今回の一行は、シナゴグの
あるなしにかかわらず、かなり急いで、わき目も振らずにフィリピを目指して
いたことが分かるのです。これがサモトラケ島やネアポリスでの伝道がなされ
なかった第一の理由なのではないでしょうか。何が何でも一行はまず最初に
フィリピへ行きたかったのです。フィリピの何が魅力だったのか。一行はフィ
リピで何をしたかったのか。次にその点を考えてまいりましょう。
 一行がフィリピに行くためには、峠を越えて16キロほどの道のりを内陸部へ
入らねばなりませんでした。しかし、彼らはまさにためらわずにフィリピへ向
かい、「こここそ目的の地」とばかりに、数日間滞在したのです。
 一行にとって、フィリピの何がそんなに魅力的だったのでしょうか。わたし
たちが第一に思いつく理由は、フィリピが「マケドニア最大の町」もしくは
「首都」だったからではないか、ということではないでしょうか。もしそうだ
とすると、聖霊によって導かれたマケドニア伝道は、まず首都から、と彼らが
考えたことになります。翻訳では分からないのですが、12節には、「プロート
ス」という「第一の」とか「首都の」とも訳せる語が使われており、私たちの
予測が当たっているかのようにも見えるのです。ところが、この語「プロート
ス」が「第一の」とか「首都の」という意味を持つためには、定冠詞が必要で
あるのに、12節ではこの語に定冠詞はありません。そして、それより困ったこ
とには、実際フィリピはマケドニアの首都でも、またマケドニアの有する4つ
の地域のどの首都でもなかったのです。「マケドニア州第1区の都市」という
翻訳は、その辺の事情を踏まえた正確な翻訳でして、この町はせいぜい、マケ
ドニアの4つの地域の一つ、第1区の一都市、主要都市ではあったかもしれない
けれどでも普通の町にすぎなかったのです。
 どうして、一行はこんな町を、「他の都市での伝道を差し置いてでも目指す
町」と考えたのでしょうか。その理由は、実は12節の後半、「ローマの植民都
市である」というところにあったのであります。

(この項、続く)



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