2016年04月24日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第45回「使徒言行録16章6〜10節」
(13/8/25)(その3)
 (承前)

 しかし、そうは言いつつも、微妙な違いがあることも事実です。それは何か、
と言えば、エルサレム教会との距離です。小アジアは何と言ってもエルサレム
に近い。いい意味でも、悪い意味でもユダヤ教の、すなわち律法主義の影響を
受けやすい環境の中にありました。それゆえ、エルサレム教会の「律法強制」
に対してどう対処するか、十分な指導が行われる必要があったのです。そして、
それは、第二伝道旅行のそもそもの目的でした。
 しかし、「異邦人伝道の」そもそもの目的は、神も律法も知らない異邦人に、
キリストの贖いによる神の愛を伝えることにありました。エルサレム教会から
遠く、しかも海を隔てたギリシア本土に住む人は、まさに異邦人の典型なので
す。この人々にこそ、キリストの福音が伝えらせねばなりません。パウロの第
2伝道旅行は、聖霊の導きによって、その当初の目的を変え、と言うより、異
邦人伝道の本来の目的に立ち帰り、新たな再出発をすることとなった。それが、
本日の物語なのです。これからが、私たちも典型的「その一人」であるところ
の「本物の異邦人」への伝道が始まります。
 このささやかな再出発に際し、ルカは姿勢を転換しました。今まで、資料を
基に客観的記述をしていたのが、10節から突如、「わたしたち記述」に変わる
のです。イレナイウス以来、著者ルカが、ここで一行に加わった、とする説も
ありますが、その当否は不明です。が、異邦人伝道の「本番」に入るに際し、
ルカがここより、自らが証人となって、自己の責任において、「異邦人伝道は、
確かに、このように行われたのだ。ほかならぬ『私』がその証人である」と述
べていることは確かです。
 わたしたちも、「本物の異邦人」です。この今日の出来事を感謝をもって受
け止めたいものです。

(この項、完)


第46回「使徒言行録16章11〜15節」
(13/9/1)(その1)

11〜12節「わたしたちはトロアスから船出してサモトラケ島に直航し、翌日ネ
アポリスの港に着き、そこから、マケドニア州第1区の都市で、ローマの植民
都市であるフィリピに行った。そして、この町に数日間滞在した。」
 いよいよ、結果的には第二伝道旅行のメインとなるヨーロッパ伝道が始まり
ました。パウロらのヨーロッパでの最初の伝道は、フィリピ伝道でした。わた
したちはこのフィリピ伝道を四回に分けて学びます。本日はその第一回目です。
 「わたしたち」という語の意味、重みについては、前回学びました。使徒言
行録は、福音書記者ルカの手による、福音書に続く第二巻でありますけれども、
ルカは、「詳しく調べたことを順序正しく書く(ルカによる福音書1:3)」と
の趣旨に従って、16:9までは、客観的記述に徹してきました。つまり、ルカに
よる福音書もそうですけれども、ルカは、資料を集めて、それに従って、「第
三者として」書いている、ということです。
 ところが、使徒言行録のある時点から、ルカは、資料で調べたことばかりで
なく、自分が見聞きしたことも書いているらしいのですね。それが、ある写本
にだけ残されているように、アンティオキア教会がエルサレム教会の援助を始
めたときからなのか(11:28)は分かりません。しかし、アンティオキア教会が
エルサレム教会の援助を始めたときからだとしても、ルカは「(自分が見聞き
したことも含めて)資料を集めて、それに従って、第三者として書く」という
方針は変えずに来ました。
 ところが、ところが、16:10から、ルカは突如編集方針を転換し、自分が見
聞きしたことはそのまま書く、つまり「わたしたちは」というスタイルで書く
ことを始めたのです。ルカは本当にトロアスから一行に加わったのかもしれま
せんが、それでも書式を変更しなくてもいいのです。なのに、本来でしたら
「テオフィロさま、わたしルカはここからは『詳しく調べたことを順序正しく
書く』のではなく、『見聞きしたことはそのまま書かせて』いただきます」と
報告せねばならないくらいの、重大なことを、ルカはなぜこの時点で始めたの
でしょうか?
 一つの理由は前回申し上げました。
 前回も申し上げたように、教会の歴史においては、アジア伝道も、ヨーロッ
パ伝道も、異邦人伝道であることに変わりはありません。ユダヤ以外に福音が
伝えられるという同じ歴史段階にあります。しかし、前回、私は「エルサレム
教会からの距離」ということを申し上げました。エルサレム教会から近いアジ
アの教会は、どうしても律法主義の影響を受けやすいのです。それに対して、
海を隔てたヨーロッパの地は、律法主義どころか、律法そのものとも無縁であ
り、「神も律法も知らない異邦人に福音を伝える」という本来の「異邦人伝道」
が成されるべきところなのです。「本物の異邦人伝道はこれからだ」というこ
とで、ルカは自分も証人の一人であるということを明らかにした、という点を
指摘させていただきました。

(この項、続く)



(C)2001-2016 MIYAKE, Nobuyuki & Motosumiyoshi Church All rights reserved.