2016年04月17日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第45回「使徒言行録16章6〜10節」
(13/8/25)(その2)
 (承前)

 その上で、の話です。パウロは「エルサレム教会の指示」を悪いところを
「骨抜き」にして指導したのです。「律法」はそれを守らねば救われないもの
としてではなく、「愛の業」として守るように、「割礼」も、受けることが
「救いの条件」なのではなく、受けたい人が受ければいいものとして、「受け
止める」よう指導したのです。パウロの、このエルサレム教会に「実は反抗す
る指導」について、ルカは、それをあからさまに書くことをせず、ギリシア語
の「微妙な表現」にて、こっそり記しています。ですから、使徒言行録は面白
いのです。
 さて、こうして、パウロら一行は、第二伝道旅行の初期の目的を「あっ」と
言う間に終えてしまいました。みなさんだったら、こういう時、どうするで
しょうか。おそらく、それでは、この際、周辺のまだ伝道していない地域へ
行って伝道しようではないか、と思われるのではないでしょうか。当然です。
いいことです。ところが、パウロら一行は、それを聖霊によって押しとどめら
れた、というところから、今日の物語が、そして不思議が始まるのです。
 さて、本日の物語は、短いところではありますが、パウロら一行が、アジア
州などでの宣教を聖霊によって妨げられたこと、トロアスにて、ギリシア本土
への宣教を指示されたこと、さらには、パウロらが、ギリシア本土での宣教を
決心したところの三部から成り立っています。順に見ていくことといたしま
しょう。
 先ほどお読みしたのは、パウロら一行が、アジア州などでの宣教を聖霊に
よって妨げられたその部分ですが、事の次第はこうです。
 一行にテモテが加わりまして、第二伝道旅行のメンバーは、パウロとシラス
とテモテの三人となりました。6節の「彼ら」とは、その3人です。彼らは、
デルベとリストラ、そしてイコニオンの教会でのなすべき務めを終え、第二伝
道旅行の当初の目的を終了し、アジア州での伝道を目指しました。アジア州は、
多くの豊かで、高度に文明化された都市を有する、当時の小アジアの中心地域
でした。しかし、彼らはそこでの宣教を聖霊によって禁止されたため、フリギ
ア・ガラテヤ地方を通って、アジア州に入らず、北へ回り、ミシア、ここもア
ジア州の一部ですが、の渕を回り黒海沿岸のあたりまで行ったと考えられます。
おそらく「それでは」ということで、彼らは、ビティニア州、これはポントス
をも含む完全に黒海沿岸の地域ですが、での伝道を志したのです。しかし、こ
れもイエスの霊によって妨げられ、仕方なく、ミシア地方を通過して、トロア
スに下った、というのが、前半のストーリーです。
 異邦人に宣教することは彼らの使命であるはずなのに、なぜ、聖霊は、そし
てイエスの霊は、更なる小アジアでの宣教を禁止したのでしょうか。使徒言行
録には、「聖霊が」「イエスの霊が」以上のことは一切記されておりません。
が、「聖霊が」「イエスの霊が」が禁じた、ということは、彼らがこの地方で
の使命を終了した、ということを意味しているのではないでしょうか。彼らの
この地方での使命とは何か、と言えば、エルサレム教会の「律法強制」に対応
して、それにもかかわらず、福音信仰を守り抜くことを指導することでした。
「聖霊は」そして「イエスの霊は」、その働きは、もう十分だ、と彼らに伝え
たのです。彼らには、次の使命が用意されていたのです。その次の使命とは何
か。それが後半において明らかとされます。

9〜10節「その夜、パウロは幻を見た。その中で一人のマケドニア人が立って、
『マケドニア州に渡って来て、わたしたちを助けてください』と言ってパウロ
に願った。パウロがこの幻を見たとき、わたしたちはすぐにマケドニアへ向け
て出発することにした。マケドニア人に福音を告げ知らせるために、神がわた
したちを召されているのだ、と確信するに至ったからである。」
 トロアスで、パウロは夜、幻を見ました。その中で、マケドニア人、ギリシ
ア本土の人が助けを求めていました。用意された新たな使命とは、ギリシア本
土での伝道だったのです。パウロ一行は、この幻を神の召命として受け止め、
ギリシアに向けて出発いたしました。次回より、ギリシア本土での宣教が始ま
るのです。
 さて、このヨーロッパ伝道をルカはどのように受け止めているのでしょうか。
それは、私たちが想像するような「大事」ではなく、淡々と受け止めている、
ということを最後に触れておきたい、と思います。以前に触れたように、ルカ
は、教会の歴史の変わり目、に「そのころ(エン・タウテース・ヘーメライス)」
という表現を用いて、読者に注意を促しています。教会がペンテコステを待っ
ていた時(1:15)、教会にギリシア語を話すユダヤ人が加わり、「国際化」が
進んできた「そのころ(6:1)」をへて、11:27の「そのころ」以降は、アン
ティオキア教会を中心とする、実際に異邦人伝道が行われる時代が始まりまし
た。今はその中にあります。アジアでの異邦人伝道も、ギリシアでの異邦人伝
道も、全く中身は変わりはないのです。聖霊は、彼らの伝道の「方向」を変え
た、というただそれだけの違いなのです。

(この項、続く)



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