2016年02月28日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第41回「使徒言行録15章6〜21節」
(13/7/28)(その3)
(承前)

 皆様、この判決をどのように受け止められたでしょうか。当面、「ほっ」と
胸をなでおろされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、安心し
てしまうにはまだ早いのです。この判決は「福音と、そのイエスにおいて異邦
人にも救いがもたらされたこと」については全く触れない、つまり結局は認め
ていない判決だったのです。それは、ヤコブの発言を注意深く読めばわかるこ
とです。それは、「神」と「モーセ律法」は登場していても、「イエス」と
「福音」については一切触れないものだったのです。異邦人に、神と「モーセ
律法」への帰依は求めつつ、イエスを信じることは求めていないのです。イエ
スの「イ」の字も出てきません。「こんなことってあるんでしょうか」と思わ
れるかもしれませんが、あるのです。教会だから福音を説いているに違いない、
と思うと、そうではない現実があるのです。
 さて、それでは「エルサレム会議」は無意味で、「エルサレムの説得」は失
敗に終わってしまったのでしょうか。そうではありません。エルサレム教会が、
(わざわざ裁判までひらいてくれて)異邦人伝道を結果として認めたことによ
り、異邦人伝道の3つの課題の1、「教会の権威をもってなされること」が、今
までアンティオキア教会の権威によってだけなされていたところが、エルサレ
ム教会が公式に認めた『ゆるぎない活動』となったのです。異邦人伝道は、課
題を残しつつも一歩前進です。
 この世における神のみ業の進展は、「ゆっくり」に見えるかもしれません。
時には、一歩前進、二歩も三歩も後退と見えることさえあり得ます。でも、そ
の「ゆっくり」こそが、神様がみ業の前進のために打ってくださった手なので
す。救いの前進のために、神様はきちんと手を打っていてくださいますから、
私たちは委ねて、福音宣教のために励みましょう。(この項、完)


第42回「使徒言行録15章22〜35節」
(13/8/4)(その1)

22節〜23節前半「そこで、使徒たちと長老たちは、教会全体と共に、自分たち
の中から人を選んで、パウロやバルナバと一緒にアンティオキアに派遣するこ
とを決定した。選ばれたのは、バルサバと呼ばれるユダおよびシラスで、兄弟
たちの中で指導的な立場にいた人たちである。使徒たちは、次の手紙を彼らに
託した。」

 本日は、エルサレムの使徒会議、(実質的には、エルサレム教会による「パ
ウロとバルナバの裁判」でしたが、)その結果がどのように通達されたか、が
テーマです。
 その前に、会議そのものの決定の確認ですが、実際に取り調べを受けたのは
パウロとバルナバでしたが、問題となったのは、つまり争点は、アンティオキ
ア教会において、異邦人信徒に割礼を施していない、そのことの是非でした。
とは言え、場合によっては、判決次第では、結論:全クリスチャンに割礼を施
す、そしてパウロとバルナバは「石打の刑」という結末だって可能性としては、
考えられなくはなかったのです。そうなっていたら、この時代以降のキリスト
教はいったいどうなっていたでしょうか。そして、今ここで私たちが礼拝を
守っているということ自体あったかどうか、歴史に「もしも」はありえません
が、たぶんなかったのではないか、と思われます。この出来事は、キリスト教
の歴史の左右を決する大事件だったのです。
 その意味で、聖霊の豊かな導きがあったのでしょう。エルサレム教会の指導
者ヤコブによる判決は、「神に立ち帰る異邦人を悩ませてはなりません。」す
なわち、割礼の強制はしない、というものでした。わたしたちは心から「よ
かった」と思います。キリスト教の歴史の観点からしても、もしこの会議の議
決がなければ、キリスト教はユダヤ教に逆戻りしてしまって、世界宗教たりえ
なかったことは事実です。
 とは言え、この判決には、重大な「限界」があったことをも、私たちは見過
ごすことができません。この判決には「指示」がついていました。次のもので
す。
 「ただ、偶像に供えて汚れた肉と、みだらな行いと、絞め殺した動物の肉と、
血とを避けるようにと、手紙を書くべきです。モーセの律法は、昔からどの町
にも告げ知らせる人がいて、安息日ごとに会堂で読まれているからです(20〜
21節)。」
 ざっくばらんに言えば、律法の一部を守ることを、異邦人信徒に「手紙を書
く」という形で伝える、ということです。が、この「手紙で伝えられること」
が、「強制」なのか、あるいは単なる「要望」なのか、でもって話は全く異
なってまいります。今日はそこのところも注目しながら見ていきたい、と思い
ます。

(この項、続く)



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