2016年02月14日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第41回「使徒言行録15章6〜21節」
(13/7/28)(その1)

6〜11節「そこで、使徒たちと長老たちは、この問題について協議するために
集まった。議論を重ねた後、ペトロが立って彼らに言った。『兄弟たち、ご存
じのとおり、ずっと以前に、神はあなたがたの間でわたしをお選びになりまし
た。それは、異邦人が、わたしの口から福音の言葉を聞いて信じるようになる
ためです。人の心をお見通しになる神は、私たちに与えてくださったように異
邦人にも聖霊を与えて、彼らをも受け入れられたことを証明なさったのです。
また、彼らの心を信仰によって清め、わたしたちと彼らとの間に何の差別をも
なさいませんでした。それなのに、なぜ今あなたがたは、先祖もわたしたちも
負いきれなかった軛を、あの弟子たちの首に懸けて、神を試みようとするので
すか。わたしたちは、主イエスの恵みによって救われると信じているのですが、
これは、彼ら異邦人も同じことです。』

 いよいよ、パウロとバルナバの側からすると「エルサレムの説得」、エルサ
レム教会の側からすると、「エルサレムの使徒会議」が始まりました。議題は
言うまでもなく、異邦人クリスチャンに割礼を強制することについての是非で
す。
 ところが、パウロとバルナバがエルサレムについて見ますと、議題は「割礼
強制」に止まるものではないことが明らかとなってきました。ファリサイ派か
ら信者になった、クリスチャンになった者が、異邦人クリスチャンに割礼ばか
りか、「割礼強制」をきっかけとして、律法そのものを守らせよう、としてい
ることが明らかとなって来たのです。これではユダヤ教とちっとも変わりない
ではないですか。そして、エルサレム教会側の意図は、まさにそこ、キリスト
教をユダヤ教に、ユダヤ教キリスト派に引き戻すところにあったのです。
 まず、集まって来た人たちが「使徒たちと長老たち」である、ということが
異例です。使徒も長老も、教会で大切な働きを担った役職です。しかし、「使
徒たち」と「長老たち」とが一緒に、セットで登場するのは新約聖書でここだ
けです。そう、皆様お気づきのことと思いますが、ユダヤ教で、祭司長、律法
学者、長老たちがセットで出てくるのと全く同じシチュエーションなのです。
ユダヤ教で、祭司長、律法学者、長老たちがセットで出てくるのは、どのよう
な場面でしたでしょうか。そう、サンヒドリンの裁判です。エルサレム教会は、
サンヒドリンの裁判と同じく、異邦人クリスチャンに「割礼強制」をしない、
律法を守らせようとしないパウロとバルナバを裁くつもりで、いた、迎えたの
です。
 この状況が裁判であった証拠は他にもあります。新共同訳聖書では「(彼ら
―「使徒たち」と「長老たち」―は)この問題について協議するために(集
まった)」、と意訳していますが、原語に戻してみますと「この問題について
精査する(イデイン・ペリ)ために」です。そして、この「精査する(イデイ
ン・ペリ)」という語は裁判の時の審理を意味するのです。
 パウロとバルナバはエルサレム教会を説得するつもりで来ました。ところが、
彼らは説得をするどころか、裁判にかけられてしまったのです。ですからここ
で行われた「議論」は、「議論」ではなく「取り調べ」であったと考えられま
す。すべて、100パーセント、パウロとバルナバを追及するものであった可能
性があります。
 おそらく、パウロとバルナバには、弁明する余地すら与えられない中で、こ
の苦境を救ったのはペトロでした。ペトロはエルサレム教会の指導的地位をす
でにヤコブに譲ってしまってはいましたが、十二使徒のリーダーとしての威信
はまだ健在だったのでしょう。彼は「コルネリウス体験」を基に語ります。そ
の主旨を捉えてまいりましょう。
 ルカがペトロの演説をどれだけ正確に伝えているか、はさておいて、ペトロ
の演説の結論は10節にあります。「それなのに、なぜ今あなたがたは、先祖も
わたしたちも負いきれなかった軛を、あの弟子たちの首に懸けて、神を試みよ
うとするのですか。」つまり、異邦人クリスチャンに割礼を、そして律法を強
制すべきではない、ということです。そしてその根拠は11節「わたしたちは、
主イエスの恵みによって救われると信じているのですが、これは、彼ら異邦人
も同じことです。」つまり、「恩恵のみ」、言い換えれば「信仰義認」でした。
私たち、現代のクリスチャン、特にプロテスタントの信者にとっては、本当に
腑に落ちる結論です。私も、この「エルサレム会議」の記事を読むときは、こ
ころ穏やかではないのですが、10節、11節を読むと、本当に心から「ほっ」と
します。ここに福音が示されているからです。

(この項、続く)



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