2015年12月06日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第35回「使徒言行録13章44〜52節」
(13/6/23)(その2)
(承前)

 このパウロの「異邦人伝道へのデビュー」とも言える説教への聴衆の反応は
いかがなものだったのでしょうか。その反応の第一段階が、42〜43節に記され
ています。先週、この部分だけはお読みすることができなかったので、今お読
みします。

42〜43節「パウロとバルナバが会堂を出るとき、人々は次の安息日にも同じこ
とを話してくれるようにと頼んだ。集会が終わってからも、多くのユダヤ人と
神をあがめる改宗者とがついて来たので、二人は彼らと語り合い、神の恵みの
下に生き続けるように勧めた。」

 会場はシナゴグ(会堂)ですので、聴衆はユダヤ教徒たるユダヤ人と、ユダ
ヤ教に改宗した、ないしはシンパである異邦人です。パウロの説教は間違いな
くこれらの人々の心に波風を起こしたようです。礼拝の後、パウロとバルナバ
との後をついてきて、二人と語り合いました。そして多分同じ人たちでしょう、
「人々」は次の安息日にも同じことを話してくれるように二人に頼んだのです。
そして、先ほどお読みした44節ですが、次の安息日になると、ほとんど町中の
人が「主の言葉を聞こう」として集まって来た、というのです。
 これは、大変な事態ですが、いったい何がそうさせたのか、そこが問題です。
ところがこの点については、ほとんどの注解者が全く注目しておりません。と
いうことは、読者が勝手に自分のイメージを投影し、膨らませている、という
ことです。日本のプロテスタント教会でしたら、44節から戦後のキリスト教
ブームの時代のことを思い起こす人が多いのではないでしょうか。先日ある教
会へお邪魔しましたら、古い信徒の方が、終戦後すぐのころかと思いますが、
教会学校を開いたら、40人、50人どころか、400人、500人の子供たちが集まっ
たということを懐かしそうに話しておられました。いや、当教会におきまして
も、昭和30年代においては、「キリスト教伝道集会」と銘打って伝道集会を開
けば、それだけで100人を超す人々が教会に集まったことが懐かしく思い起こ
されます。「キリスト教」という物珍しさだけでそれだけの人が集まったので
す。
 ピシディア州アンティオキアにおいても、「キリスト教」という物珍しい教
えにそれだけたくさんの人が集まった、ということなのでしょうか。私は「違
う」と思います。ここは、パウロの解く福音、ここでは「主の言葉」と表現さ
れていますが、が人々の心を打ったのです。なぜでしょうか。それは、パウロ
の説教が旧約聖書を踏まえつつ、しかもはっきりとユダヤ教との訣別、信仰の
義への乗り換えを表現していたからです。いや、正確に言えば、表現していた
に違いないからです。そして、救いに至るために、異邦人とユダヤ人との間に
何らの差別もない、平等である、とのメッセージがそこに込められていたから
なのではないでしょうか。ゆえに、ユダヤ人、異邦人共に心の動揺が収まらな
かったのです。
 ところが、この深い、そしてラジカルな御言葉の解き明かしに対して、町の
「反応」は、真っ二つに分かれることとなります。以下、52節まで一気に読ん
で、解き明かしを進めていくことといたしましょう。

45〜52節「しかし、ユダヤ人はこの群衆を見てひどくねたみ、口汚くののしっ
て、パウロの話すことに反対した。そこで、パウロとバルナバは勇敢に語った。
『神の言葉は、まず、あなたがたに語られるはずでした。だがあなたがたはそ
れを拒み、自分自身を永遠の命を得るに値しない者にしている。見なさい、わ
たしたちは異邦人の方に行く。主はわたしたちにこう命じておられるからです。
「わたしは、あなたを異邦人の光と定めた、あなたが、地の果てにまでも救い
をもたらすために」』異邦人たちはこれを聞いて喜び、主の言葉を賛美した。
そして、永遠の命を得るように定められている人は皆、信仰に入った。こうし
て、主の言葉はその地方全体に広まった。ところが、ユダヤ人は、神をあがめ
る貴婦人たちや町のおもだった人々を扇動して、パウロとバルナバを迫害させ、
その地方から二人を追い出した。それで、二人は彼らに対して足の塵を払い落
とし、イコニオンに行った。他方、弟子たちは喜びと聖霊に満たされていた。」
 町の反応は、ユダヤ人と異邦人との真っ二つに分かれた、と言いたいところ
なのですが、事態はそう単純ではありませんでした。ユダヤ人を中心とする迫
害者と、異邦人を中心とする信奉者とに分かれたのです。
 ユダヤ人ですが、「群衆を見てひどくねたみ」つまり、たくさんの人がパウ
ロの言葉を聞こうと集まったことに嫉妬し、「パウロの話すことに反対した。」
つまり、説教妨害をした、というわけです。非常に単純な反応です。が、ユダ
ヤ人の反応はそこに止まりませんでした。ユダヤ教への改宗者ないしはシンパ
である貴婦人たち、この人々は異邦人です、そしておそらくその夫である「町
のおもだった人々、」明らかに異邦人です、を扇動して、パウロ一行を迫害さ
せた、というのです。

(この項、続く)



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