2015年11月08日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第34回「使徒言行録13章1〜12節」
(13/6/9)(その2)
(承前)

 さて、こうして最初の伝道地キプロスに着いた二人ですが、早速、その使徒
の権威が試される出来事に直面することとなります。

4〜12節「聖霊によって送り出されたバルナバとサウロは、セレウキアに下り、
そこからキプロス島に向け船出し、サラミスに着くと、ユダヤ人の諸会堂で神
の言葉を告げ知らせた。二人は、ヨハネを助手として連れていた。島全体を
巡ってパフォスまで行くと、ユダヤ人の魔術師で、バルイエスという一人の偽
預言者に出会った。この男は、地方総督セルギウス・パウルスという賢明な人
物と交際していた。総督はバルナバとサウロを招いて、神の言葉を聞こうとし
た。魔術師エリマ―彼の名前は魔術師という意味である―は二人に対抗して、
地方総督をこの信仰から遠ざけようとした。パウロとも呼ばれていたサウロは、
聖霊に満たされ、魔術師をにらみつけて、言った。『ああ、あらゆる偽りと欺
きに満ちた者、悪魔の子、すべての正義の敵、お前は主のまっすぐな道をどう
してもゆがめようとするのか。今こそ、主の御手はお前の上に下る。お前は目
が見えなくなって、時が来るまで日の光を見ないだろう。』するとたちまち、
魔術師は目がかすんできて、すっかり見えなくなり、歩き回りながら、だれか
手を引いてくれる人を探した。総督はこの出来事を見て、主の教えに非常に驚
き、信仰に入った。」

 異邦人伝道に出発した二人です。助手として12:25で「マルコと呼ばれている
ヨハネ」と記されているヨハネを連れて行きます。ただしマルコは13:1の名前
のリストには上がっておらず、あくまでも助手である、ということです。キプ
ロス、その港町サラミスに着くと、まずシナゴグで伝道します。後の異邦人伝
道でも、パウロはまず現地のシナゴグで伝道します(13:14、14:1、以降たく
さん)。なぜ、異邦人伝道なのにユダヤ人のところへ行くのでしょうか。パウ
ロ自身には、「まず、ユダヤ人に(ローマの信徒への手紙1:16)」という思いが
あったかもしれません。しかしそればかりでなく、私は、すでに行われてきた
「ユダヤ教による異邦人伝道との違い」すなわち、割礼を強制しない立場を明
らかにする意図があったのではないか、と考えています。
 が、ここでは求道者を得ることはできませんでした。島中まわりました。し
かし、ダメでした。しかし、首都パフォスにおいて、大切な求道者と出会いま
した。地方総督セルギウス・パウルスです。ルカはこの人物を「賢明な人物」
と表現しています。「賢明」と訳されている語は「理解力がある」と言った
ニュアンスの語です。好奇心だったかもしれませんが、神の言葉を聞く求めを
持っていたのです。バルナバとサウロは招かれました。ところが、バルイエス、
別名エリマというユダヤ人の魔術師にして偽預言者が邪魔をしました。魔術師
の原語は「マゴス」です。「マゴス」は,マタイによる福音書2章では『占星
術の学者』と訳されており、イエスを拝みに来た「尊敬すべき人物」です。し
かし、「マゴス」には「(天文などの知識を悪用する)詐欺師」という意味もあ
りました。ここでは明らかにこれです。しかも彼は「偽預言者」でした。「偽
預言者」とは、神にあえて逆らう人物です。バルイエスという名前、「イエス
の子」との意、自体が象徴的です。エリマという別名については、その意味す
るところについて諸説ふんぷんですが、アラム語の「夢解釈者」、ないしはア
ラビア語の「賢者」という語から来ているとする説が有力です。賢明にして反
抗的、手強い相手です。対応を誤れば、サマリア伝道の失敗の二の舞になりか
ねません。
 サウロはどうしたでしょうか。パウロという名に変身しました。名を変える
ことは新たな生き方をすることを意味します、聖霊に預かった、使徒の権威を
もって対抗する道を選んだのです。これはまさに、悪魔と悪魔祓い師の対決で
す。厳しい戦いだったことと思います。
 しかし、その厳しい戦いに勝利し、総督が入信して、キプロス伝道は大成功
の裡に終わりました。隙を見せて、大失敗という結果を招いたサマリア伝道の
轍を踏むことなく済みました。きちんとした権威を授かり、行使することに
よって、何とか乗り越えることができたのです。
 異邦人伝道は、異邦人伝道であればこそ、喜びの音ずれを伝える、というこ
とだけでは済まない場合があります。その前に現地の悪弊と戦わねばならない
のです。厳しい戦いです。しかし、これに勝って、福音の権威が証明されるこ
とにより、伝道は飛躍的発展を遂げるのです。
 日本のプロテスタント史においてもそうでした。多くの地域において、教会
は、廃娼運動、禁酒運動として、地歩を築いていったのです。伝道は、厳しい
戦いそのものでもあります。

(この項、完)



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