2015年10月04日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第32回「使徒言行録12章6〜19節」
(13/5/12)(その1)

6〜11節「ヘロデがペトロを引き出そうとしていた日の前夜、ペトロは二本の
鎖でつながれ、二人の兵士の間で眠っていた。番兵たちは戸口で牢を見張って
いた。すると、主の天使がそばに立ち、光が牢の中を照らした。天使はペトロ
のわき腹をつついて起こし、『急いで起き上がりなさい』と言った。すると、
鎖が彼の手から外れ落ちた。天使が、『帯を締め、履物を履きなさい』と言っ
たので、ペトロはそのとおりにした。また天使は、『上着を着て、ついて来な
さい』と言った。それで、ペトロは外に出てついて行ったが、天使のしている
ことが現実のこととは思われなかった。幻を見ているのだと思った。第一、第
二の衛兵所を過ぎ、町に通じる鉄の門の所まで来ると、門がひとりでに開いた
ので、そこを出て、ある通りを進んで行くと、急に天使は離れ去った。ペトロ
は我に返って言った。『今、初めて本当のことが分かった。主が天使を遣わし
て、ヘロデの手から、またユダヤ民衆のあらゆるもくろみから、わたしを救い
出してくださったのだ。』」

 まず、久しぶりの講解説教ですので、どんな場面だったか、だけは明らかに
しておかねばなりません。
 11:27の「そのころ」以降、教会の二頭時代が始まりました。異邦人を中心
とするアンティオキア教会と、ユダヤ人信徒のみからなるエルサレム教会です。
この二つの教会が、異邦人伝道という共通の課題に向かって、いかにしてその
違いを乗り越えていくか、がこれからの教会の課題です。が、クラウディウス
帝の時に起こった大飢饉に際しては、アンティオキア教会からエルサレム教会
に援助の手を差し伸べるという出来事が起こり、危機ではありましたが、幸先
の良いスタートを切った二教会、二頭時代でした。
 ところが、二頭時代が始まった途端、一方のエルサレム教会では大変な困難
が起こっていました。実は、エルサレムに起こった飢饉が46年、これから述べ
る(前回述べた)事件が起こったのが42年ないし43年なので、実は順序が前後し
ているのですが、ヘロデ・アグリッパ王による迫害が突如起こるのです。原因、
理由は正確なところは分かりません。何の前触れもなく、突然、エルサレム教
会への弾圧が始まり、いきなり、十二使徒のひとり、ゼベダイの子、ヨハネの
兄弟ヤコブが、あの、船で網をつくろっていた時にイエスに声をかけられて弟
子に召されたあのヤコブが殺されてしまうのです。そればかりではありません。
教会の指導者の一人、おそらくトップであったペトロも捕えられ、過越祭の後、
さらし者にすべく、厳重な監視の下、牢にいた、というところから、今日の物
語は始まります。
 が、その前に、前回も触れた問題を確認しておきましょう。それは、弾圧は
弾圧でも、国家権力による弾圧は本当に怖い、ということです。ペトロは、す
でにサンヒドリンの裁判にかけられて牢にも入れられました。しかし、それは
あくまでも宗教対立によるものであって、サンヒドリンも手荒なことはしてい
ません(5:26)。死者は出ていません。しかし、国家権力による弾圧は、たとえ
それが、宗教や、信仰内容とかかわりのないことから起こってきたとしても、
国家権力は生殺与奪の権を持っていますから、宗教団体に壊滅的な打撃を与え
ることが可能だ、ということなのです。ヘロデの弾圧も、きっかけは些細なこ
とだったかもしれません。しかし、教会にとっては、突如、晴天の霹靂のごと
く、存亡の危機に立たされてしまったのです。さあ、どうするか、どうなるか、
という問題も抱えて、今日の物語は始まるのです。
 さて、まず事の次第ですが、結末から言えば、ペトロが以前サンヒドリンに
逮捕された時と同じく、天使の手による奇跡的解放があった、ということです。
しかし、前回の時と違って(5章)、かなり記述が細かい、ということに読者は
気づくのです。特に、10節を読むと、ペトロが入れられていた牢には、第一と
第二の二つの衛兵所があり、町に通じる門が「鉄製」であったことまで記され
ています。そこでこの記述から、ペトロの入れられていた牢が、一般には「ア
ントニアの塔」であったとされていますが、「アントニアの塔」であったとし
てもそのどこの部分なのか、特定できるのではないか、と期待されました。し
かし、できませんでした。ヒントになったのは「町に通じる」という部分だけ
でした。「アントニアの塔」には、神殿側と市街地側と二つの入り口がありま
した。ペトロが連れ出されたのは、その市街地側の入り口だったのだろう、と
いうことだけは推測される、ということです。要するにルカの書いている細か
い記述は、実は事実の記述としてはあまりあてにならないということです。
 それでは、なぜルカは、10節のみならず、6節以降、このような細かい記述
をあえてしたのでしょうか。それは、ルカの記述には、実は下敷きがあったと
いうことなのです。その下敷きとは、旧約聖書の出エジプトの物語、出エジプ
ト記12章、そしてダニエルの物語、本日の旧約書6章も関連はありますが、ダ
ニエル書3章でした。
 まず、出エジプト記12章にかかわる部分です。まず6節、「ヘロデがペトロ
を引き出そうとしていた日の前夜」の部分です。これは出エジプト記12:12に
対応します。

(この項、続く)



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