2015年09月20日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第31回「使徒言行録12章1〜5節」
(13/5/5)(その1)

1〜2節「そのころ、ヘロデ王は教会のある人々に迫害の手を伸ばし、ヨハネの
兄弟ヤコブを剣で殺した。」

 またまた、「そのころ」が出てきました。が、前回ご説明したとおり、「そ
のころ」には2種類あります。「そのころ」と、同じ日本語に翻訳されていま
すが、原語には2種類あるのです。ルカが時代を区切るために用いている「そ
のころ」と、そうでない「そのころ」です。ここは、文脈からして、ただの
「そのころ」です。とは言え、まだご納得いただけない方もいらっしゃるか、
と思いますので、今日は、「そのころ」についてのさらにもう一つ先の説明を
加えるところから、話を始めてまいりましょう。
 実は、ルカが時代を区切るために用いている「そのころ」は、そのまま訳す
と「それらの日々に」という表現が使われています。1:15、6:1、11:27全部そ
うです。「日」は、ギリシア語で言うと、「ヘーメラ」、複数では「ヘーメラ
イ」です。そして実は「ヘーメラ(日)」は聖書では特別の意味を持っているの
です。皆様よく御存じのとおり、神が天地創造をなさる前、地は闇でした。
(創世記1章2節)そして、神は「光あれ」と言われて、創造の業を始められ
ました。神が光を造られて、昼ができ、そして昼と夜とがあって、日ができた
のです。ですから、聖書の考え方によれば、日は神が造られたものです。ヘブ
ライ語で、「日」のことを「ヨーブ」と言いますが、それは「昼」の意味でも
あり、さらには、主の定めたもうた「終わりの日」の意味でもあり、複数形に
なると、主の定めたある特定の「期間」のことを指すのです。
 この「ヨーブ」をLXXでギリシア語に翻訳した語が、「ヘーメラ」です。そ
れゆえ、「ヘーメラ」は、新約聖書では、「昼」の意味であり、もちろん「日」
の意味であり、さらには「終わりの日」の意味でもある上で、複数形になると
(「ヘーメライ」)、神の定めた特定の「期間」を指すのです。よって、ルカ
の言う「それらの日々に」とは、神の定めたもうた特定の「期間」の意味にな
るのです。「そのころ」と単純に訳してしまうと、この語「ヘーメラ」の深い
意味が見失われてしまうかもしれません。
 一方、19:23と並ぶ、本日の、12:1の「そのころ」は実に単純な「そのころ」
です。「そのころ」と訳して何の差支えもありません。19:23と12:1には、「カ
イロス」という語が使われています。「カイロス」はギリシア語に昔からある
語で、(ギリシア語には、もう一つ「時」を表す「クロノス」という語があり
ますが)、カチッカチッと刻まれる「時」を表す「クロノス」に対して、ある
特定の「期間」を表す語です。神が定めた期間を指すだけでなく、一般的に
「時代」といった意味合いをもった語です。
 よって、12:1の「そのころ」によって、読者は、これから起こる出来事は、
ルカが11:27で定めた新しい時代の中での出来事ですよ、ということを知って、
読み進めればいい、ということです。ルカが11:27で定めた新しい時代とは、
どういう時代でしょうか。それは、二頭時代、二教会時代でした。教会はエル
サレム教会だけである、という時代は終わって、エルサレム教会とアンティオ
キア教会とが並立する時代が始まったのでした。
 少し、前回を振り返りますと、この二頭時代の教会の課題は、割礼問題の最
終解決でした。イエス・キリストを信じて救いに与るためには、洗礼が求めら
れるのみで、割礼は必要ないという真理が全教会に行き渡ることです。しかし、
現実は、この問題に対して保守的なエルサレム教会と、進んで改革を進めるア
ンティオキア教会との対立でした。しかし、それにも拘わらず、両教会は、愛
の業によってしっかりと結び合っていた、というのが、ルカによるこの二頭時
代の総括です。
 が、総括してしまう前に、この二頭時代に教会に何が起こったのか、教会の
歴史をたどるルカは順に語らねばなりません。その第一弾として、ルカは、ア
ンティオキア教会に向いた目をもう一度エルサレム教会に戻します。エルサレ
ム教会では何が起こっていたのでしょうか。実は、エルサレム教会は存亡の危
機に立たされていました。そこには、ただならぬ事態が生じていたのです。何
が起こったのか。もう一度1〜3節を読んでみましょう。

1〜3節「そのころ、ヘロデ王は教会のある人々に迫害の手を伸ばし、ヨハネ
の兄弟ヤコブを剣で殺した。そして、それがユダヤ人に喜ばれるのを見て、更
にペトロをも捕えようとした。それは、除酵祭の時期であった。」

 エルサレム教会に起こった出来事とは、ヘロデ王による、ヨハネの兄弟ヤコ
ブの殺害でした。ヨセフスの記録にありませんので、正確な年代の特定はでき
ませんが、紀元後42ないし43年の出来事と思われます。
 しかし、読者は、ここでいきなり登場してきた「ヘロデ王」にびっくりした
ことでしょう。「まだ生きていたのか」と思われた方もいらっしゃるでしょう、
更に、そのヘロデが突如教会への迫害を始めたことも驚きならば、殺された使
徒がペトロではなく、ヨハネの兄弟ヤコブであった、ということも驚きです。
そこで、これらの謎を、順に解いていくことといたしましょう。

(この項、続く)



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