2015年09月13日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第30回「使徒言行録11章27〜30節」
(13/4/28)(その2)
 (承前)

27〜30節「そのころ、預言する人々がエルサレムからアンティオキアに下って
来た。その中の一人のアガボという者が立って、大飢饉が世界中に起こると、
“霊”によって予告したが、果たしてそれはクラウディウス帝の時に起こった。
そこで、弟子たちはそれぞれの力に応じて、ユダヤに住む兄弟たちに援助の品
を送ることに決めた。そして、それを実行し、バルナバとサウロに託して長老
たちに届けた。」

 さて、エルサレム教会とアンティオキア教会の2つの教会の関係についてで
すが、確かな資料は使徒言行録とパウロの手紙しかありませんから、まだまだ
分からないことがたくさんあります。が、必ずしもうまくいってはいなかった、
と思われるのです。使徒言行録15:1以下によれば、アンティオキア教会成立後
も、ユダヤから、つまりエルサレム教会から、ある人々、正式の使者かどうか
は定かではありませんが、がアンティオキア教会にやってきて、「割礼を受け
なければあなたがたは救われない」と主張し、教えていたことが記録されてい
ます。この主張は、アンティオキア教会の理念、もっと言えば、異邦人伝道そ
のものの理念、「洗礼を受けて、イエスを信じる者はクリスチャンである」を
揺るがすものですから、当時アンティオキア教会にいたパウロやバルナバとの
間で激しい論戦になりました(15:2)。いつも、ずっとであったかどうかは定か
ではありませんが、エルサレム教会からアンティオキア教会に対して、「異邦
人クリスチャン」への割礼を強く迫る動き、異邦人伝道そのものを揺るがす動
きがこの後も続いたことは確かです。
 アンティオキア教会は、どのように対処したでしょうか。詳しいことは15章
の講解で触れることとなりますが、大いに反発して、割礼問題について協議す
るために、パウロとバルナバ、その他数名の者をエルサレムに派遣し(2節)、
有名なエルサレム会議が開かれることとなりました。アンティオキア教会の主
張はある程度は認められることとなったのですが、この問題はこの後もさらに
尾を引くこととなりました。エルサレム教会が間違った干渉を停止するまでに
は、まだしばらくの時がかかるのです。いや、この問題の解決に向けての努力
こそが、二頭時代の教会の課題、テーマそのものなのであります。
 しかし、このような問題の解決への努力と共に、二教会間の協力関係が揺る
がず保たれていたことも、この二頭時代の特徴でした。ルカはこの短い断片の
中で、そのことを明らかにしているのです。きっかけは、アガボという預言者
の大飢饉予告の実現でした。クラウディウス帝の在位(41〜54)に、アガボの
言うような世界大の大飢饉ではありませんでしたが、46年にエルサレム地域に
飢饉が起きました。これに対して、アンティオキア教会の信徒が自主的に援助
活動を開始しました。これが、アンティオキア教会によるエルサレム教会援助
の始まりだったのです。後にパウロは、アンティオキア教会だけでなく、世界
中の教会を巻き込んで、エルサレム教会への援助活動を行いました。そして、
パウロはこの援助活動に命を懸け、そして、この援助活動のゆえに捕えられ、
命を落としたのです。このアンティオキア教会によるエルサレム教会への援助
が、エルサレム教会によるアンティオキア教会への不当な干渉にもかかわらず、
それでも異邦人伝道を推進していく力となりました。飢饉で困っている同胞を
援助する、という善意に基づいた愛の行為が、違いを乗り越え、一つとなって、
異邦人伝道という課題に取り組むために必要であること、なくてはならないこ
とを、ルカはここで回りくどい言い方ですが言っているのです。
 もちろん、異邦人伝道に関して正しい主張をしているのはアンティオキア教
会です。ルカ自身も、アンティオキア教会の側に自分の身を置いています。し
かし、今は、エルサレム教会からの理解が得られず、妨害さえ受ける状況で
あったとしても、やはり、愛を注ぎ続けるのです。この愛の行為が、異邦人伝
道という主のご使命達成のためになくてはならない基礎となるのです。
 日本基督教団においても、内部において、取り組むべき課題について、深刻
な路線対立を抱えざるを得ない状況にあります。どれが正しいか、は神の歴史
が判断するでしょう。しかし、路線対立にも拘わらず、互いに足を引っ張るの
ではなく、愛をもって支え合うことが必要だ、ということです。主のみ業の前
進のためには、この愛の業がなくてはならないということです。

(この項、完)



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