2015年09月06日
〔使徒言行録連続講解説教〕
第30回「使徒言行録11章27〜30節」
(13/4/28)(その1)
27節「そのころ、預言する人々がエルサレムからアンティオキアに下ってきた。」
異邦人伝道の準備をしている時代は、あっという間に終わりまして、ルカの
、例の「そのころ」が登場しました。どういう時代が始まったのか、そのこと
の考察を行うためにも、先に前回までのところを振り返っておきましょう。
異邦人伝道は、主イエス・キリストが始められ、弟子たる使徒たちに課せら
れた使命であると同時に課題でしたが、使徒たちがこのことに習熟するために
は、多くの試行錯誤が必要でした。最大の課題は、イエスを信じて救いに与る
ためには、洗礼を受けて、聖霊を受けることのみが必要なのであって、割礼の
あるなしは、もはや関係ない、ということを、ユダヤ人たる使徒たちが受け入
れることでした。これが受け入れられて、異邦人伝道は飛躍的に発展するはず
なのですが、なかなか受け入れられないのです。異邦人は異邦人でも、コルネ
リウスのような、ユダヤ人から見ても立派な人物が洗礼を受けて「クリスチャン
…この時はその名称はまだありませんでしたが…」になったことを素直に喜べ
ず、「割礼を受けていない」とケチをつける有様です。
ところが、アンティオキアというエルサレムから700キロも離れた地で、ユ
ダヤ人信徒たちは、今まで、ギリシア人(異邦人)を目の当たりにしても、「こ
の人異邦人だしな」などと、躊躇していたのでしょうが、勇気をもってか、あ
るいはせっぱつまってか、どちらでもいいのですが、思い切って声をかけて伝
道してみたら、思いもかけず反応がよく、洗礼を受けてクリスチャンとなる人
が続出してしまった、というわけです。「信じて主に立ち帰る(21節)」とは、
明らかに洗礼を受けたことを意味します。しかも、エルサレム教会から視察に
来たバルナバまでもが、この視察の目的は、明らかに「アンティオケ教会が異
邦人信徒に割礼を受けさせているかどうか」をチェックするためであった、と
考えられるのですが、「神の恵みが与えられた有様を見て喜び(23節)」、つま
り、無割礼にして洗礼を受けた者を「クリスチャン」として認める発言をなし、
なんと、このアンティオキアで、割礼は受けなくていい、洗礼を受けて、イエ
スを信じる者を「クリスチャン」と呼ぶようになってしまった、というわけな
のです。
以上が、前回を中心とした前回までの要約なのですが、結果、何が起こった
か、と言うと、今まで、「クリスチャン」であるとはいえ、みんなが割礼も受
けたユダヤ人であるエルサレム教会だけが「教会」であったところが、そのエ
ルサレム教会と並んで、無割礼にして洗礼のみを受けた「クリスチャン」が中
心の、中心ということは、割礼を受けたユダヤ人クリスチャンもいたでしょう
から、です、アンティオキア教会が成立し、二頭体制が成立した、ということ
なのです。
あれほど生みの苦しみを味わった異邦人伝道ですが、あっけないほど簡単に
拠点ができてしまいました。すべて、主の、聖霊の導きです。
で、「そのころ」ですが、今まで述べた通り、ルカは明らかに、教会の二頭
体制の始まり、を「そのころ」という一言で表現しています。前回の「そのこ
ろ」、それは6:1から始まった、教会に「異邦人」が信徒として加えられる時
代でしたが、それはすでに終わりを告げ、異邦人教会ができてしまいました。
これからは新しい時代ですよ。ユダヤ人教会と異邦人教会とが、並立する時代
です。さあ、これから教会にどのような課題・困難が与えられ、教会はそれら
をどう解決していくのか、それをよーく見ていきましょう、と、ルカは、「そ
のころ」という一言で、読者に読む姿勢を改めるように促しているのです。私
たちも、少し背伸び体操をして、心を空っぽにして新たなセクションに取り組
んでまいりましょう。
ちなみに、このセクションがどこまで続くのでしょうか。それは、使徒言行
録の最後までです。ルカは見通していたでしょうが、教会が異邦人教会だけに
なる時代、それは使徒言行録以後の時代のこととなります。
そして、ちなみにのちなみにですが、19:23に「そのころ」を見つけ出して、
使徒言行録にはもう一つ時代があるではないか、と疑問に思い、不審に思われ
た方もいらっしゃるかもしれません。が、これは、翻訳の問題です。原語に戻
してみますと、19:23の「そのころ(カタ・トン・カイロン・エケイノン)」は、
ルカが時代を区切る「そのころ(エン・タウタイス・タイス・ヘーメライス)」
とは、似ても似つかない言葉でした。以上です。
さて、それでは二頭時代の課題・困難とは何でしょうか。それは、予想通り、
二教会の間の関係でした。
(この項、続く)
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