2015年08月09日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第28回「使徒言行録11章1〜18節」
(13/4/14)(その1)

1〜3節「さて、使徒たちとユダヤにいる兄弟たちは、異邦人も神の言葉を受け
入れたことを耳にした。ペトロがエルサレムへ上って来たとき、割礼を受けて
いる者たちは彼を非難して、『あなたは割礼を受けていない者たちのところへ
行き、一緒に食事をした』と言った。」

 ペトロとコルネリウスの出会いの物語の続き、そして結末部分です。いつも
のように、前回の振り返りから始めてまいりましょう。が、今回はこの物語の
まとめでもありますので、コルネリウス物語の全体像を考えながら、まとめて
いくことといたしましょう。
 第一部は、前々回というか、実際には3月17日の説教で取り扱った部分です。
それは「事件ないしは出来事」の部分と言うことができるでしょう。詳細は、
ペトロ自身の口で、本日のテキストの中で繰り返されていますので、その時触
れることといたしますが、エルサレム教会の代表者の一人であるペトロが、と
にもかくにも、異邦人であるコルネリウスの家を、「訪問」し、「交際」する、
たぶん一緒に飲み食いする、という画期的な出来事が起こった、その記録です。
 そして、前回のテキスト、つまり第二部、11:34~48は以上を受けまして、ペ
トロがコルネリウスの家で行った説教の内容紹介とコルネリウスをはじめとす
る家人が聖霊を受け、そして洗礼を受けた記録です。
 ペトロの説教は、この出来事を、旧約聖書の地盤から意味づけたものでした。
申命記10:17を根拠として、「神が人を分け隔てなさらない」ということです。
前回の補足説明ですが、申命記10:17では、「(神は)人を偏り見ず」となって
おり、申命記10:17が、本当に使徒言行録10:34の根拠なのか、疑われた方もい
らしたことでしょう。この点については、ギリシア語に戻してみますと、ギリ
シア語においても表現は微妙に違いますが、どちらも「顔色をうかがう」とい
う言葉が使われており、「神は、人の顔色を見ることをされない方だ」という
共通した思想があることがわかるのであります。つまり、人の評価に左右され
ない、差別しない、となるのです。その「差別しない」対象が、申命記では
「孤児、寡婦、寄留者(18節)」でした。が、今や、今まで「異邦人」として差
別されてきた「他民族の人々」にまで広がった、とペトロは訴えているのです。
ペトロの言う今の時代のしるしは、イエスの復活です。死者の中から復活し、
ご自身が「神から来られた方」であられることを証なさったイエスが、全世界
への宣教命令を出されることにより(1:8)、差別なくすべての民族に救いが
もたらされる時代が到来したのです。
 この復活のイエスに与るために、つまり救いに与るためには、すべての人に
洗礼を受けることが求められます。そうすれば、聖霊が与えられます。コルネ
リウスとその家人たちには、洗礼が授けられました。
 こうして、前回第二部においては、教会の権威の下になされる、旧約聖書に
基づくメッセージが語られる、使徒個人ではなく、イエスが証される、という
異邦人伝道の三原則に基づいた「異邦人伝道のマニュアル」が確立され、あと
は、本格的に異邦人伝道に乗り出すのみ、というところまで、準備態勢が整っ
たのでした。
 ところが、本日、第三部で、教会が異邦人伝道に着手するに当たり、残され
た重大な問題があることが露呈するのであります。それは、異邦人の改宗者に
割礼を要求するかどうか、という問題でした。割礼は、イスラエルそしてユダ
ヤ人にとっては神の選びと恵みのしるしでした。よってユダヤ教徒の男子は全
員受けており、ユダヤ教への改宗者も割礼を受けることを要求されました。し
かし、異邦人がイエスを信じて教会のメンバーになる場合はどうでしょうか。
これから起こってくるケースです。
 この問題については、のちに15章で再燃して、教会会議では「割礼を要求し
ない」という結論が出されました(15:28)。また、パウロは、ローマの信徒へ
の手紙2〜3章で、割礼を受けているだけでは救いに何の役にも立たないことを
論証しています。ですから、私たちは、パウロ以後の教会においては、異邦人
信徒に割礼が要求されるなどということは論外となっています。ゆえに、今の
教会は、割礼を一切要求しません。
 しかし、当時のエルサレム教会では違いました。信徒は全員ユダヤ人で、例
外なく割礼を受けていました。その教会が、エルサレムでの大迫害に促されて、
それで仕方なく異邦人伝道に取り組み始めました。多くの信徒が、いや全員か
もしれません。異邦人の改宗者に、当然のことのように、割礼を受けることを
要求することになったのです。

(この項、続く)



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