2015年05月10日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第22回「使徒言行録8章26〜40節」
(13/2/17)(その2)
(承前)

 こうして、フィリポが天使の指示に従い、サマリアを立ったとして、次の問
題です。「南に」と訳されている語、「南に」という意味と「真昼間に」とい
う意味と二つの意味があります。そして、両方の意味の比重は同じです。そし
て、新共同訳は「南に」ですが、協会訳は「真昼間に」です。さあ、どうしま
しょう。ガザという町は、地図で見ていただければ分かるとおり、サマリアか
ら見れば、大体南ですが、エルサレムからですと西です。よって出発点の解釈
の違いが二つの全く異なる訳を生み出した、とも言えます。が、これは、残念
ながら、決定できません。サマリア起点説に立ったとしても、「真昼間に」と
いうこともありうるからです(ヨハネ4:6参照)。
 さらに、「そこは寂しい道である」と訳されている部分、協会訳では「この
ガザは、今は荒れ果てている」です。もういやになっちゃう。確かにガザは、
紀元前96年に、時のユダヤの王、アレクサンドロ・ヤンナイウスによって破壊
されました。まだその後遺症が残っている可能性はあります。が、ここは「道
が寂しい」と考える方が自然ではないでしょうか。
 結局、ここでは、フィリポは「サマリアから、真昼間に、荒れ果てている
『エルサレム・ガザ線』に出ること」を天使から指示された、と受け止めるこ
とと致しましょう。真昼間に、つまりだれも外出しない時間に、しかもこんな
荒れ野へ出て、「何が伝道だ」とフィリポでも思ったことでしょう。しかし、
彼は天使の指示に従いました。すると、そこでは、思いもかけない出会いが
待っていました。その出会いの一部始終を少し長いですが、読んでみましょう。

27〜40節「フィリポはすぐ出かけて行った。折から、エチオピアの女王カンダ
ケの高官で、女王の全財産の管理をしていたエチオピア人の宦官が、エルサレ
ムに礼拝に来て、帰る途中であった。彼は、馬車に乗って預言者イザヤの書を
朗読していた。すると霊がフィリポに、「追いかけて、あの馬車と一緒に行け」
と言った。フィリポが走り寄ると、預言者イザヤの書を朗読しているのが聞え
たので、「読んでいることがお分かりになりますか」と言った。宦官は、「手
引きしてくれる人がなければ、どうして分かりましよう」と言い、馬車に乗っ
てそばに座るようにフィリポに頼んだ。

 彼が朗読していた聖書の箇所はこれである。『彼は、羊のように屠り場に引
かれて行った。毛を刈る者の前で黙している小羊のように、口を開かない。卑
しめられて、その裁きも行われなかった。だれが、その子孫について語れるだ
ろう。彼の命は地上から取り去られるからだ。』宦官はフィリポに言った。
『どうぞ教えてください。預言者は、だれについてこう言っているのでしょう
か。自分についてですか。だれかほかの人についてですか。』そこで、フィリ
ポは口を開き、聖書のこの個所から説きおこして、イエスについて福音を告げ
知らせた。道を進んで行くうちに、彼らは水のあるところに来た。宦官は言っ
た。『ここに水があります。バプテスマを受けるのに、何か妨げがあるでしょ
うか。』そして、車を止めさせた。フィリポと宦官は二人とも水の中に入って
行き、フィリポは宦官にバプテスマを授けた。彼らが水の中から上がると、主
の霊がフィリポを連れ去った。宦官はもはやフィリポの姿を見なかったが、喜
びにあふれて旅を続けた。フィリポはアゾトに姿を現した。そして、すべての
町を巡りながら福音を告げ知らせ、カイサリアまで来た。」
 「真昼間の荒れ野」だれもいそうもない所ですが、そこに人がいました。そ
れは、「エチオピアの女王カンダケの高官で、女王の全財産の管理をしていた
エチオピア人の宦官」でした。しかし、ユダヤ教的発想からすると、救いにか
なり遠い人物です。第一に、彼は(この人は男性です)エチオピア人です。エチ
オピアと言いますと、私たちはあの「エチオピア」、私も含めて古い世代の方
ですと知っています、ローマ・オリンピックの時にはだしで走ってマラソン競
技で金メダルを獲得したアベベ選手のエチオピアを思い出しますが、あそこで
はありません。今日のスーダンが、聖書で言うエチオピアです。が、その違い
は大した問題ではありません。問題は、この地は異邦、しかも旧約聖書、そし
てユダヤ教によれば、「神の救いからもれた」地とされていた、という点です。
詩編68:32には「エジプトから青銅の品々が到来し、クシュは、神に向かって
手を伸べる。」と記されています。クシュとはエチオピアのことです。一見、
いいことが書いてあるように見えますが、エチオピアは、エジプトと並んで、
終末のときになって初めて神に心を向ける、それまでは悔い改めない、という
意味です。かなり、悔い改めの予測点数の低い相手です。
 第二に、彼は「エチオピアの女王カンダケの高官で、女王の全財産の管理を
していた宦官」でした。ルカは、カンダケという名をエチオピアの女王の固有
名詞と解釈している節がありますが、そうではありません。エジプト王が「ファ
ラオ」という通称で呼ばれていたように、カンダケは、エチオピア女王の通称
でした。それはともかく、この人は「女王の全財産を管理する高官」でした。

(この項、続く)



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