2015年03月08日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第18回「使徒言行録7章17〜43節」
  (13/1/13)(その1)

 前々回、前回に引き続き、ステファノの弁論の第三部、モーセ論です。大変
に長い部分ですので、アブラハム、ヨセフの場合のように、旧約聖書の記事を
確認するところから始めると、それだけで時間が終わってしまいます。ずばり、
ステファノのモーセ論から入っていくことと致しましょう。
 とは言え、モーセ論はそれだけで独立したものではなく、アブラハム論、ヨ
セフ論の続きですので、アブラハム論、ヨセフ論でのステファノの主張をまず
確認しておくことと致しましょう。注意すべき点は、ステファノは、どの論に
おいても、当時のユダヤ教の論と自分の論とを対峙させている点です。そして、
ステファノ教会こそ、父祖の伝統を「正しく」継承していると主張しているこ
とです。
 アブラハムについて言えば、アブラハムは、ユダヤ教においては、律法を正
しく守った「義人」でした。しかし、ステファノによれば、アブラハムは、ま
だカルデヤのウルにいたとき、すなわち「異邦人状態」において召しを受け、
ただひたすら神の言葉のみに従った人物です。これは、イエスの言葉のみにひ
たすら従い、異邦人伝道に出て行こうとしているステファノ教会の姿にまさに
重なる、という訳です。
 次に、ヨセフですが、ユダヤ教においては、必ずしも高く評価されることの
ない彼を、ステファノは高く評価します。ヘレニズム世界で成功を収めた、い
や収めることを目指しているステファノ教会のあり様とまさに同じだからです。
しかし、「成功」に目的があるのではありません。ヨセフと同じく、同胞との
和解こそ、その最終目標なのです。
 以上の、二つの論を踏まえて、いよいよ弁論の中心となるモーセ論がありま
す。さて、それはどのような内容のものなのでしょうか。それは、ただただ長
いだけに見えるかも知れませんが、きれいに、本当にきれいに五部に分かれて
います。順に見ていくことと致しましょう。第一部は17〜22節、モーセの誕生
に関わる物語です。

17〜22節「神がアブラハムになさった約束の実現する時が近づくにつれ、民は
増え、エジプト中に広がりました。それは、ヨセフのことを知らない別の王が、
エジプトの支配者となるまでのことでした。この王は、私たちの同胞を欺き、
先祖を虐待して乳飲み子を捨てさせ、生かしておかないようにしました。この
ときに、モーセが生まれたのです。神の目に適った美しい子で、三ヶ月の間、
父の家で育てられ、その後、捨てられたのをファラオの王女が拾い上げ、自分
の子として育てたのです。そして、モーセはエジプト人のあらゆる教育を受け、
すばらしい話や行いをする者になりました。」

 出エジプト記1章から2章10節までの物語です。ステファノの語りも、ほとん
ど原文のとおりの物語となっています。しかし、二点ほど原典にないことが言
われています。一つは、モーセが「神の目に適った美しい子(21節)」であった
としている点、もう一つは、モーセが「エジプト人のあらゆる教育を受け、す
ばらしい話や行いをする者になった(22節)」とされている点です。ステファノ
は、この二点で、何を強調したいのでしょうか。いや、実はこの二点はステ
ファノのオリジナルではありません。すでに、ヘレニズムのユダヤ教のモーセ
論で言われてきたことでした。ステファノは、それをそのまま継承したのです。
モーセは、ヘレニズムのユダヤ教においても、ステファノにおいても、生まれ
たときから才能に恵まれた人物でした。
 次に第二部(23〜29節)、及び第三部(30〜35節)、に行きます。ここは、
モーセの召命に関わる部分です。原典は、出エジプト記2章11節から22節及び
3章1〜10節にあたります。

23〜35節「四十歳になったとき、モーセは兄弟であるイスラエルの子らを助け
ようと思い立ちました。それで、彼らの一人が虐待されているのを見て助け、
相手のエジプト人を打ち殺し、ひどい目に遭っていた人のあだを討ったのです。
モーセは、自分の手を通して神が兄弟たちを救おうとしておられることを彼ら
が理解してくれると思いました。しかし、理解してくれませんでした。次の日、
モーセはイスラエル人が互いに争っているところに来合わせたので、仲直りを
させようとして言いました。『君たち、兄弟どうしではないか。なぜ、傷つけ
合うのだ。』すると、仲間を痛めつけていた男は、モーセを突き飛ばして言い
ました。『だれが、お前を我々の指導者や裁判官にしたのか。きのうエジプト
人を殺したように、わたしを殺そうとするのか。』モーセはこの言葉を聞いて、
逃げ出し、そして、ミディアン地方に身を寄せている間に、二人の男の子をも
うけました。

 四十年たったとき、シナイ山に近い荒れ野において、柴の燃える炎の中で、
天使がモーセの前に現れました。モーセは、この光景を見て驚きました。もっ
とよく見ようとして近づくと、主の声が聞えました。『わたしは、あなたの先
祖の神、アブラハム、イサク、ヤコブの神である』と。モーセは恐れおののい
て、それ以上見ようとはしませんでした。」

(この項、続く)



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