2015年02月08日

〔使徒言行録連続講解説教〕

第16回「使徒言行録7章1〜16節」
  (12/12/30)(その1)

7章1〜2節「大祭司が、『訴えのとおりか』と尋ねた。そこでステファノは言っ
た。」

 クリスマスの行事が間に入りましたが、先々週の続きです。
イエス・キリストは、その命をかけて、律法を破られ、神殿礼拝を破壊されま
した。それは、破壊に意味があるのではなく、従来のユダヤ教の信仰の枠、結
局はユダヤ人のみが救いの対象である、を打ち破り、すべての民に開かれた
「神の国の福音」の到来を告げ知らせるしるしでした。
 そのイエス・キリストの宣教命令、マタイによれば「あなたがたは行って、
すべての民をわたしの弟子にしなさい(マタイ28:19)、」ルカによれば「(あな
たがたは)地の果てに至るまで、わたしの証人となる(使徒言行録1:8)、」との
命令を受けて、教会はその活動を開始しました。よって、教会は何よりもまず、
異邦人に開かれた教会となるべきでした。しかし、現実はどうだったでしょう
か。エルサレムの教会のメンバーはユダヤ人ばかりでした。しかも、そのユダ
ヤ人の中でも、ユダヤ系ユダヤ人による、ギリシア系ユダヤ人に対する差別が
行われる、というのが実態でした。
 しかし、まことの教会は悔い改めます。意地を張ったり、面子にこだわって
決して自分の非を認めない、などということはしません。第二期に入った教会
は、ギリシア系ユダヤ人のメンバーの中から、食事係を主の御名によって選出
し、その食事係は、実はただの食事係ではなく、使徒と同等の権限を与えられ
た者であり、その食事係の一人ステファノをリーダーとして再出発したのです。
 ステファノは、イエスのご意志に忠実に倣い、「異邦人に開かれた教会」を
形成しようとしたのだ、と思われます。ただし、ステファノの宣教活動につい
ては、使徒言行録では触れられていませんので、具体的には分かりません。が、
ユダヤの伝統主義者にして、ユダヤ教の「異邦人伝道」に熱心なヘレニストに
よって、まず迫害が起こったことが、ステファノが異邦人に開かれた教会を形
成しようとしたことを証明しています。そして、それはやがてユダヤ教当局者
にも知られるところとなり、サンヒドリンの裁判にかけられることとなってし
まいました。
 それまでに、ペトロをリーダーとするエルサレム教会も、二度にわたってサ
ンヒドリンの裁判にかけられてきました。奇跡的な助けがあって、二度とも結
局は釈放されています。しかし、あのイエスの弟子集団でありながら、釈放さ
れた本当の理由は、当時のエルサレム教会が、律法をきちんと守り(守らねば
ならぬと意識し)、神殿礼拝を欠かさなかったこと(3:1)であると考えられます。
イエスの弟子ではあっても、ユダヤ教当局者からすれば、エルサレム教会は、
ユダヤ教の分派の一つに過ぎなかったのです。
 ステファノをリーダーとする第二期の教会は、従来のエルサレム教会とは異
質のものを持っていました。そして、それは、ユダヤ教当局者からすると、イ
エスと同じ危険をはらんだ集団でした。よって、今回の裁判、教会にとっては
三回目の裁判ですが、は、決して「釈放」では終わらない、終われない要因を
持っていたのです。最悪の結果が予測されます。訴えの厳しさがその信仰の内
容を表わしています。それ(訴えの内容)は、@「モーセと神を冒涜する(6:11)」
A「聖なる場所と律法をけなす(6:13)」B「あのナザレ人イエスは、この場所
を破壊し、モーセが我々に伝えた慣習を変えるだろう(6:14)」の三点、要約す
れば、ユダヤ教がいのちをかけて守ってきた「律法と神殿礼拝を否定している」
ということです。
 さて、本日のテキストは、このユダヤ教当局者による訴えに対するステファ
ノ本人の弁論の前半です。この弁論はステファノ本人によってなされたものに
せよ、あるいは、ルカによる作文にせよ、ステファノをリーダーとする教会の
考え方、すなわち信仰を、たとえ百パーセント正確にではないとしても表した
ものと考えられます。そしてそれは、旧約聖書の「再解釈」という形を取りま
した。ペトロの弁論、パウロの弁論(22章)のように、イエスとの出会いから解
き起こすものではありませんが、ユダヤ教の伝統主義者にとっては、ボディー
ブローのようにずっしりと堪える弁論だったと考えられます。
 ここに登場するのは、五人の旧約の先達、アブラハム、ヨセフ、モーセ、ダ
ビデ、ソロモンです。ステファノにとってはこれらの人々はイエスの予型、な
いし指し示す者です。まず最初はアブラハムです。

2節途中〜8節「私たちの父、アブラハムがメソポタミアにいて、まだハランに
住んでいなかったとき、栄光の神が現れ、『あなたの土地と親族を離れ、わた
しが示す土地に行け』と言われました。それで、アブラハムはカルデア人の土
地を出て、ハランに住みました。神はアブラハムを、彼の父が死んだ後、ハラ
ンから今あなたがたの住んでいる土地にお移しになりましたが、そこでは財産
を何もお与えになりませんでした。一歩の巾の土地さえも。

(この項、続く)



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