2014年07月20日

〔ローマの信徒への手紙講解説教〕

第 56回「ローマの信徒への手紙16章25〜27節」
(12/8/12)(その3)
 (承前)

 ところが、聖書の考え方によれば、神は、神のご計画を、特にキリストの出
来事を通して、人間に、啓示と言いますが、示してくださったのです。ゆえに、
聖書の考え方によれば、人は、キリストの出来事を見れば、パウロがローマの
信徒への手紙で言うように、「神の救いのご計画があるのだ」ということが分
かるし、さらに、エフェソの信徒への手紙によれば、「それが天地創造の前か
らあるのだ」ということも分かる、という訳です。
 ゆえに、25節、26節で言われていることは、パウロの言っていることとは違
うのではなく、パウロの言っていることの先を行っている、つまり、この頌栄
全体は、パウロがローマの信徒への手紙で言っていることを、後の時代の人が、
後の時代の言葉で要約したものと言えるのです。パウロが自分で書いたのかど
うか、といった問題を超えて、ローマの信徒への手紙の結びとして、最もふさ
わしい結びと言えるのではないでしょうか。
 福音の宣教は、「終わりの日」まで受け継がれて行かねばなりません。私た
ち自身の働きは非常に小さなものではありますけれども、私たちもその環の一
部に加えさせていただきたいものだ、と願うものです。

(ローマの信徒への手紙講解説教完)



〔使徒言行録連続講解説教〕

第1回「使徒言行録1章1〜14節」
  (12/8/26)(その1)

1〜2節「テオフィロさま、わたしは先に第1巻を現して、イエスが行い、ま
た教え始めてから、お選びになった使徒たちに聖霊を通して指図を与え、天に
上げられた日までのすべてのことについて書き記しました。」

 本日より、使徒言行録の連続講解説教が始まります。
原文ではそうではありませんけれども、翻訳は、いきなり、テオフィロなる人
物への呼びかけから始まり、そして、この書が、イエスについて記した第1巻、
ルカによる福音書の続編であることが明らかとされます。さらに、ルカによる
福音書と同じく、この書もテオフィロに献呈される、というのです。それでは、
テオフィロはいかなる人物であったのか、話をそこから始めていくことといた
しましょう。
 結論から言えば、テオフィロなる人物は、聖書中で、ここと、ルカによる福
音書1:3にしか、しかも献呈先として名前があげられているだけなので、ど
この誰なのか、ほとんどわからない、というのが現状です。
 しかし、この人物がいかなる人物であるのか、推測する手がかりが全くない
わけではありません。それは、ルカ1:3で、テオフィロに「クラティストス」
という敬称が付けられている、ということです。「クラティストス」という敬
称が、協会訳聖書では「閣下」と訳されているごとく、当時のローマでは、
ローマの官僚、それもかなり高級な地位にあるある人に対する敬称でした。実
際、使徒言行録では、この「クラティストス」という敬称を、使徒言行録23:26、
24:3、26:25と、三か所用いていますが、いずれも、当時のユダヤ総督への敬
称です。それゆえ、テオフィロなる人物は、ローマの高官の一人で、しかも、
ルカによる福音書と使徒言行録を献げられるくらいですから、珍しく、キリス
ト教に好意的だった人物なのではないか、というのが従来の定説でした。
 が、果たして、本当にそうだったのでしょうか。疑問が残ります。なぜなら、
ルカによる福音書の「クラティストス」という語の使い方が大変に微妙だから
です。
 「クラティストス」という語は、「クラトス(力)」という語が変化してで
きた語です。「クラトス」が形容詞に変わると、すなわち「力ある」という意
味の語になると、「クラトゥース」という語になり、そしてその「クラトゥー
ス」の最上級が「クラティストス」なのです。ゆえに、「クラティストス」と
は、もっとも力ある、という意味であり、この世で、最も力あるローマ帝国の
官僚への敬称として定着していったのでした。
 しかし、聖書の世界はこの世の世界とは別のことを考えています。「宇宙全
体」で本当に力があり、権威があり、権力あるお方は神だ、と考えているので
す。それゆえ、LXXでは、「クラトス(力)」を人間の力や、自然の力を表
わす時に用いることもあったのですが、後のユダヤ教の時代になると、「クラ
トス(力)」という語は、「神の力」を表わす時にしか用いなくなりました。
新約聖書も、このユダヤ教の受け止め方を受け継いでいます。「クラトス(力)」
という語は、新約聖書でただ1箇所、ヘブライ人への手紙2:14で、悪魔の力を
表わす時に用いられているのを除いて、神の力を表わす時においてのみ、用い
られているのです。もちろんルカによる福音書もそうです(ルカによる福音書
1:51、使徒言行録19:20)。
 そのルカが、神にしか用いられない「クラトゥース」、しかも「クラティス
トス(最も力ある)」という敬称を、人間に対して用いるとは、一体どうした
ことなのでしょうか。

(この項、続く)



(C)2001-2014 MIYAKE, Nobuyuki & Motosumiyoshi Church All rights reserved.