2014年06月29日

〔ローマの信徒への手紙講解説教〕

第 55回「ローマの信徒への手紙16章21〜23節」
(12/8/5)(その1)

21節「わたしの協力者テモテ、また同胞のルキオ、ヤソン、ソシパトロがあな
たがたによろしくと言っています。」

 前回までのところを振り返っておきたい、と思います。
 ローマの信徒への手紙は、そもそもは15章35節で終わっていました。パウロ
は、未知なる教会であるローマの教会の信徒に、「信仰の義」を語ってきまし
た。そして、さらに、未だに「律法の義」にこだわるユダヤ人キリスト者も、
決して救いから漏れていないことを説いて来ました。その上で、これからエル
サレム教会へ献金を携え行く自分の計画、さらには異邦人伝道に邁進する自分
の計画を述べるところで、このローマの信徒への手紙は終わっていたのです。
 ところが、そのうしろへ、15章の後、当初は明らかにエフェソ教会へあてた
と考えられる手紙の断片が付け加えられました。この断片の前半は、26人以上
にわたる「信仰の友」への挨拶でした。問題は、なぜそもそもエフェソ教会に
あてられた手紙の断片が、ローマの信徒への手紙に添えられたか、ということ
です。それは、前半部分(16:1〜16)について言えば、信仰の義による聖徒
の交わりの実例、先例としてエフェソ教会を示し、ローマの教会もその交わり
の中にあることを伝えるためだった、と考えられます。
 その上で、前回取り上げた後半(16:17〜20)についても、本来はエフェソ
教会にあてられた手紙の断片、16:1〜16の続きである、と考えられます。こ
こでは、「教会内の対立者の問題」が取り上げられます。ローマの信徒への手
紙本文にも、教会内における「強い人」と「弱い人」の対立の問題が取り上げ
られました。しかし、その対立は、あくまでも、キリストを贖い主として受け
容れた上での対立でした。しかし、ここでの対立者は反キリスト、「異端」な
のです。エフェソ教会もすでに異端の問題に直面しておりました。パウロは、
異端の問題に関しては、神から与えられた判断力をもって、すなわち個人にお
いてはヌースにおいて、教会としては、神学論争をもって対抗すべきことをエ
フェソ教会に忠告しました。ローマの教会もやがては異端の問題に直面するこ
ととなるでしょう。その時のアドバイスとして、この部分もここに添えられた、
と考えられるのです。
 ところが、異端の問題は予想以上にせっぱつまった問題でした。ローマの信
徒への手紙執筆後、この手紙がローマ教会に送られて間もなく、この手紙その
ものが異端の手によって手を加えられる事態となってしまったのです。そのよ
うなことをしたのは誰でしょうか。それはマルキオンという人物でした。
 マルキオンは、85〜90年ごろ、黒海沿岸のポントス州のシノペという町で生
まれました。裕福な船主であったと言われる父と対立し、小アジア各地を転々
とした後、139年ないしは140年にローマにたどり着きました。膨大な、財産を
寄付することで、ローマ教会に受け入れてもらいました。が、彼のキリスト教
理解は、異なっていました。論争を経てのことでしょうが、異端と判定され、
144年にローマ教会から破門されました。が、マルキオンはめげることなく、
自らの教団、教会を形成し、3世紀まで、ローマ教会にとっての最大の抵抗勢
力となった、とのことです。
 マルキオンの思想は、その自らの著書「対立論」が残っていないので、本当
のところはわかりません。論敵の著作から推測されるのみです。ゆえに限界は
あるのですが、旧約聖書を否定した、と言われています。
 すなわち、マルキオンによれば、旧約聖書の神は、創造神ではあるが、無知
で愚かな神、冷酷で残虐、偏狭な神であり、創造を悔いて、自分の民を滅ぼし、
救うことのない神である、とされる、とのことです。
 一方、マルキオンによれば、イエスによって啓示された神は、旧約聖書の神
とは無関係の新しい神である、とされます。
 ゆえに、旧約聖書の神は破棄され、新約聖書において、イエスによって示さ
れる愛の神を信じさえすればよい、というのが、マルキオンの信仰理解だった
ようです。
 そのマルキオンによって、ローマの信徒への手紙15章、16章が削除されると
いう事態が起こりました。それはいったいどうしてだったのでしょうか。
 そもそも一般に、宗教においては、確立した宗教となるためには、儀礼と教
義の明確化が必要とされます。しかし、成立後間もない、神の国の教会、キリ
スト教においては、それがまだ、未熟、未完成でした。なぜなら、教会は最初
は、よみがえりのイエスに直接出会った証人によって担われていたからです。
が、1世紀から2世紀にかけての、世代交代は、教会にも宗教としての明確化
を求めることとなりました。そして、その要求に真っ先に気づいたのが、ロー
マ教会と対立していたマルキオンないしはマルキオン派だったのです。
 マルキオンは、そしてマルキオン派は、正典を結集することによって、教義
の明確化に取り組みました。愛の神の啓示がその信仰の中心ですから、正典は
新約聖書のみとなります。

(この項、続く)


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