2014年02月02日
〔ローマの信徒への手紙講解説教〕
第
43回「ローマの信徒への手紙12章9〜21節」
(12/4/29)(その3)
(承前)
また、復讐と訳されている語、この語は「仇を討つ」という意味の語ですが、
LXXではほとんど専ら、神を主語として、神が罰を加える時に用いられる語
でした。結論を言えば、復讐も報復も、旧約聖書以来、神が人間に対してなさ
れることで、人間の介入する余地は一切なかったのです。
しかし、パウロの書簡においてもここのみ、そして新約聖書全体を通しても
唯一ここのみ、人間のなす復讐が取り上げられ、問題視されているのはなぜで
しょうか。その理由は明確には書かれていませんが、クリスチャンが神に代わっ
て罰を加えようとする罪を目の当たりにしたからではないでしょうか。旧訳聖
書以来、ユダヤ教徒でもそこまでは思いつかなかった重大な罪です。なぜ、ク
リスチャンがそこまでしてしまったのでしょうか。それは、おそらく、「信仰
による義」によって、罪がすっかり赦され、神と同じになった、と誤解したか
らです。自分の罪を棚上げにして、他人の罪が赦せなくなったのです。
クリスチャンは絶えず信仰の原点に立ち返る必要があります。罪があるにも
拘わらず、キリストが義とみなしてくださったのです。義とされたからと言っ
て、肉体を抜け出してしまったわけではありません。だから、自分自身の体を
生きたいけにえとして献げ、「偽りのない愛」を貫かなければならないのです。
ゆえに、パウロは「復讐は私のすること」という申命記本文にはない言葉を加
えて、(申命記本文では、人間が復讐する(罰を加える)などということは想定さ
えしていません)、復讐を、すなわち、冒涜にして高慢の罪を警告しているので
す。
「復習するは我にあり」という言葉は、実は「信仰によって義とされた者」
に対する重大な警告なのです。私たちは、そのことをきちんと受け止めている
でしょうか。
(この項、完)
第44回「ローマの信徒への手紙13章1〜7節」
(12/5/6)(その1)
1節「人は皆、上に立つ権威に従うべきです。」
前回のところを振り返って見ましょう。
信仰によって義とされた者の生き方が問われていました。信仰によって義とさ
れた者は、皆、子となったカリスマを与えられていますがから、そのカリスマ
ごとに異なった行動規範が求められるのか、と思いきや、そうではありません
でした。全員に共通して、一つのことが求められているのです。その一つのこ
ととは何か、と言えば、それは愛、しかも偽りのない愛でした。特に、クリス
チャン同士の間では、お互いに、その愛を貫いていくことが求められます。
しかし、クリスチャンは、クリスチャン同士の間でだけ生活しているのでは
ありません。もちろん、相手がクリスチャンでなくとも、「偽りのない愛」は
貫いていかねばなりません。しかし、クリスチャンがクリスチャン以外の人に
相対するとき、特に陥りやすい罪が指摘されることとなります。その第一は、
愛がなかなか通じにくいという状況においてとは言え、相手を裁いてしまうこ
と、それも、神に成り代わって、終末の裁き、復讐までもしてしまうことです。
が、クリスチャンも、クリスチャンではない者も、すでに罪のままでキリスト
によって贖われているのですから、クリスチャンはその原点に立ち返らねばな
りません。信仰によって義とされた者の歩むべき道は、自分自身の体を生きた
いけにえとして献げ、愛の業に励むことのみです。復讐などもっての外です。
そして第二に、クリスチャンが、この世の権威をないがしろにする危険が指
摘されることとなります。この点、具体的な事例は知られていないのですが、
Tコリント5〜6章によれば、コリント教会の人が、この世の裁判を明らかに
軽視していた状況がうかがえます。
そこでパウロは、この世の権威も、神の一定の権限移譲によって成り立って
いる、という原理原則を述べることによって、権威の軽視に注意を促すことと
なりました。それが、本日のテーマです。
1節後半「神に由来しない権威はなく、今ある権威は全て神によって立てられ
たものだからです。」
権威と訳されている語の原語は「エクスーシア」という語です。この語は、
もともとは、「何かをする能力」という意味の語でして、それが「何かをする
権利」という意味でも使われることとなり、それが国家に適用され、「国家の
支配権」の意味でも用いられるようになったのです。さらに、国家の権威ある
地位、またその地位にある人のことをもさすようになりました。
LXXでは、終わりの方、すなわち後期の文書になって初めて登場します。
すなわち、捕囚後、ユダヤ人が異教世界に住むようになって、この語が初めて
使われるようになったのです。
(この項、続く)
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