2014年01月05日

〔ローマの信徒への手紙講解説教〕

第 41回「ローマの信徒への手紙12章1〜2節A」
(12/4/15)(その2)
(承前)

 もしパウロが、以上のことを承知で、意識して「礼拝」に「ラトレイア」の
語を当てたてするならば、パウロにとって「礼拝」とは、次のことを意味する
こととなるのではないでしょうか。すなわち、礼拝とは、イエスが「過越の犠
牲」にご自身を献げられたことを覚え、キリストによって義とされた者が、自
分自身を犠牲として献げ、そしてキリストがなさったように、奴隷のごとくに
して神と人とに仕えることを決心する機会である、ということです。

 さて、パウロにとっての「礼拝」の意味が分かりましたので、「ロゴスに基
づいた礼拝」の意味もほとんど分かったようなものですが、あらためてこの点
を明確にしておきましょう。
 「ロゴス」という語の一般的な意味は、「言葉」ないし「理性」という意味
です。ですから、「ロゴスに基づいた礼拝」を「合理的な礼拝」あるいは「あ
なたがたのなすべき礼拝」と訳すことも可能です。しかし、これらの訳では、
パウロの意図を十分にくみ取っている、とは言えません。むしろ、「霊的な礼
拝」(協会訳)の方がより良い訳です。
 実は、「ロゴスに基づいた(ロギコス)」という語は、聖書全体で2回しか用
いられていない語です。もう1箇所は、ペトロの手紙一2:2です。そこには
「(あなたがたは)混じりけのない霊の乳を慕い求めなさい」と記されています。
ここで「霊の」と訳されている語の原語が「ロゴスに基づいた(ロギコス)」な
のです。
 「ロゴスに基づいた(ロギコス)」が「霊の」と訳された理由は次の通りです。
たぶん、当時、「ミルクを飲む」という儀礼があったのだろう、と考えられま
す。それを踏まえてペトロの手紙の著者は「(あなたがたは)いかがわしい儀礼
に仕えるのではなく、神の言葉に基づいた儀礼に仕えなさい」と言っているの
です。聖書で「霊の」と言う場合、それは「神の言葉に基づいた」という意味
です。
 同じように、ここでもパウロは、人身御供は人身御供でも、いかがわしい人
身御供ではなく、神の言葉に基づいた、すなわち「霊的な」人身御供をしなさ
い、勧めているのです。
 結論としてパウロは、礼拝とは、神の言葉に従って自己を献げる儀礼、そし
てまたその儀礼に仕えることであることを、言葉を重ねて言っているのです。

 さてそれでは、次に、礼拝出席者は、この礼拝にどのような備えをもって臨
むべきなのか、それについては、2節を見ていくことといたしましょう。

2節「あなたがたは、この世に倣ってはいけません。むしろ、心を新たにして
自分を変えていただき、何が神の御心であるか、何が善いことで、神に喜ばれ、
また完全なことであるかをわきまえるようになりなさい。」
 まず第一に、「この世に倣わない」ということです。つまり礼拝は「いかが
わしい儀礼ではない」ということです。
 第二は、翻訳では、新共同訳でも協会訳でもあいまいですが、「ヌースの一
新」です。では、「ヌースの一新」とは何でしょうか。
 そもそも、人間の言葉でもそうですが、神の言葉にも「語られる言葉」と
「語られない言葉」とがあります。そして、人間の言葉の場合と同じく、「語
られない言葉」の方がより重要です。そして、「語られる言葉」を受け止める
人間の器官が「耳」であるのに対して、「語られない言葉」を受け止める器官
が「ヌース」なのです。「ヌース」とは、人間の心の、知力と理解力と判断力
とを総合した能力のことを言うのですが、人はこの「ヌース」を研ぎ澄まして
礼拝に臨むことが必要だ、ということです。
 もちろん、私たちの「ヌース」はたかが知れたものですが、礼拝に参加する
ことによって、神の言葉が、逆に、人の「ヌース」を一新してくださる、とい
うのです。そうすれば、神と人とに仕えるために、何を、どのようにすればよ
いのか、見通しが立ってくるはずです。
 礼拝は礼拝でも、偶像礼拝は「無知と偏見」を生み、助長するだけですが、
真の礼拝は、知恵と力とを生みます。私たちは、このことに希望を持って、
日々の礼拝生活に励んでまいりましょう。

(この項、完)


第42回「ローマの信徒への手紙12章3〜8節」
(12/4/22)(その1)

3節「わたしに与えられた恵みによって、あなたがた一人一人に言います。」

 振り返って見ましょう。パウロは11章で、長い長い、イスラエル(ユダヤ人)
の選びについての議論を終えました。そして12章から、信仰によって義とされ
た者、クリスチャンの生き方はどうあるべきか、という議論に入りました。そ
してその最初の議論が、礼拝について、でした。

(この項、続く)



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