2012年08月19日


〔ローマの信徒への手紙講解説教〕

第 1回「ローマの信徒への手紙1章1〜7節」
(11/5/15)(その3)
(承前)

 3節後半から4節は、パウロの時代に既に唱えられていた信仰告白のようです
が、よみがえられて救いを成就されたイエスが、「主」として今この世界を支
配しておられるという告白です。
 この主の下に、ユダヤ人ばかりでなく、異邦人も今や守りの中に入れられる
ようになりました。それゆえ、異邦人も主に服することによって、平安を与え
られるようになりました。それで、特に、異邦人を主イエスへの信仰、従順へ
と導くために、パウロは、異邦人の使徒として召される、という恵みを受けた
のです。それゆえ、異邦人にして召されたあなたがた、ローマの教会の信徒に、
わたしパウロが手紙を送ります。と、以上のことが、1-6節の発信人欄に記さ
れているのです。
 パウロの伝えたかった重要な点が二つあります。一つは、パウロの働きが、
神の救いのご計画の下にあること、そしてもう一つは、その神の救いのご計画
が、パウロの言う福音という形で、イエス・キリストにおいて成就した、とい
うことです。
 最後に、コンパクトにまとめられた、受取人情報、そしてあいさつです。

 7節「神に愛され、召されて聖なる者となったローマの人たち一同へ。わたし
たちの父である神と主イエス・キリストからの恵みと平和が、あなたがたにあ
るように。」

 ローマの信徒たちの実態は、聖なる者とは程遠く、恵みと平和に満ちている、
というよりは、不満と不安に駆られている、というものであったかもしれませ
ん。しかし、主イエス・キリストの恵みに入れられた者には、救いが約束され
ている、ということです。私たちも主の恵みの下に歩みましょう。

(完)


第2回「ローマの信徒への手紙1章8〜15節」
(11/5/22)(その1)

 聖書は、全体として神の言葉なのですが、教えや戒めだけが記されているか、
と言えば、そうではありません。旧約聖書には、律法、預言者の二つの分野の
ほかに、諸書という分野があって、詩や物語などの「文学」も含まれています。
新約聖書では、手紙が旧約聖書で言うところの諸書にあたります。ページ数で
言うと、新共同訳聖書で179ページを占め、新約聖書全体の37.3パーセントに
あたります。しかも、その手紙全体の72パーセントが、パウロの名を冠した手
紙です。もちろん新約聖書全体の中心はイエス・キリストであり、新約聖書と
は、そもそもイエス・キリストの証しです。福音書のページ数は212ページで、
新約聖書の中で最大のページ数を占める分野ですが、イエス・キリストを信じ
る信仰の内容は、パウロの名を冠した手紙に言い尽くされている、と言っても
過言ではありません。その意味で、パウロの名を冠した手紙は、新約聖書の中
心です。
 もっともパウロの名を冠した手紙の中には、明らかに後の時代の人が、パウ
ロの名によって記した、と考えられるものもあります。それらは、手紙という
よりは「諸教会への勧告」という性格が強いのですが、だれが見てもパウロが
書いた、と認められる手紙は、本来は、あくまでも「手紙」として書かれたも
のです。手紙は、発信人と受信人がいて、そして、どうしても伝えたい事柄、
それを伝えねばならない事情があって、初めて書かれるものです。ローマの信
徒への手紙は、あて先はローマ教会ということは分かりましたが、執筆の事情
はどのようなものだったのでしょうか。この点に関する情報は、ローマの信徒
への手紙の場合、他の手紙に比して極めてわずかです。しかし、15:22以下と
並んで、貴重な執筆事情情報が、本日のテキスト、1:8-15にありますので、本
日はそれを取り上げていきましょう。

 8-9節前半「まず初めに、イエス・キリストを通して、あかたがた一同につい
てわたしの神に感謝します。あなたがたの信仰が全世界に言い伝えられている
からです。わたしは、御子の福音を宣べ伝えながら心から神に仕えています。
その神が証ししてくださることですが、」

 事情説明の冒頭において、パウロは明らかに使徒の権威をもって語っていま
す。なぜなら、「イエス・キリストを通して」と、イエス・キリストを引き合
いに出し、そして、神を「わたしの神」と読んでいるからです。当時の教会で、
このような言葉を使って祈ることができたのは、使徒だけでした。
 使徒とは何でしょうか。マルコによる福音書で既に学んだように、そもそも
は十二人、「十二弟子」のことでした。そして、十二人が「十二使徒」と呼ば
れるようになったのは、神の国の新しい十二部族の教会に仕える者として召さ
れてからでした。実際に、イエス・キリストの十字架と、そして復活とにより、
神の国、神の支配が完成され、神の国の教会が始まった時、十二使徒は、十二
使徒団を結成し、活動を開始しました。既に、イスカリオテのユダの裏切りに
より、一名の欠員が出ていましたので、マティアを補充しました(使徒言行録
1:56)。そして、後に、この十二人に、パウロを加えた十三人だけが、使徒の権
威を持つものとして認められることとなりました。

(続)


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